「ブラック・スワン」の根本原理とは「指数関数」 トランプが真剣に受け止めなかった「小論文」

AI要約

新型コロナ・パンデミックに市場が揺れる2020年3月。投資顧問会社ユニバーサ・インベストメンツは4000%を超えるリターンを叩き出した。多くの投資家が匙を投げ、多額の損失を被るなか、なぜユニバーサは莫大な利益を生み出すことができたのか。

ナシーム・タレブがアップルMacBookの画面上のチャートを見ながら、2020年1月に武漢で起きていた新型コロナウイルスの流行に注目し始めた。当時は中国だけの問題と思われていたが、タレブは疫学者の推計から新型コロナの脅威性を感じ取っていた。

タレブの白髪に象徴されるように、世界中が新型コロナの深刻性を理解する前、株式市場は記録的な高値を更新していた。タレブは先見性を持ち、ユニバーサの投資戦略によって巨万の利益を生むことに成功した。

「ブラック・スワン」の根本原理とは「指数関数」 トランプが真剣に受け止めなかった「小論文」

新型コロナ・パンデミックに市場が揺れる2020年3月。投資顧問会社ユニバーサ・インベストメンツは4000%を超えるリターンを叩き出した。多くの投資家が匙を投げ、多額の損失を被るなか、なぜユニバーサは莫大な利益を生み出すことができたのか。このほど上梓された『カオスの帝王:惨事から巨万の利益を生み出すウォール街の覇者たち』では、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙記者の著者スコット・パタースンが、ユニバーサの最高投資責任者マーク・スピッツナーゲルと、ベストセラー本『ブラック・スワン』の著者ナシーム・タレブが確立した投資戦略とその哲学に迫っている。本稿では、同書の一部を抜粋した第2回目をお届けする(全3回。第1回はこちら)。

■「武漢で今起きていることは要注目だ」

 ナシーム・タレブはアップルMacBookの画面上のチャートに目を凝らした。2020年1月。彼はユニバーサのマイアミ・オフィスで仕事をしていた。中国の武漢で大流行していた新型コロナウイルスの気がかりな特徴について知ったところだった。

 この時点で新型コロナは数百名の死者を出し、数千人が重症化していた。中国政府は地域一帯のロックダウンを実施した。これらはすべて遠い出来事のように見えた。

 中国以外で厳しい施策が必要だと思っていた人間はほとんどいなかった。アメリカのドナルド・トランプ大統領とイギリスのボリス・ジョンソン首相は、このウイルスはただの季節性インフルエンザで春には収束すると言って片づけた。アメリカとヨーロッパとアジアの株式市場は記録的な高値を更新していた。未来は明るかった。

 真っ黒だったあごひげが最近真っ白になったタレブは、一部の疫学者が新型コロナのR0――「Rノート」もしくは「Rゼロ」と読む――が3か4、ひょっとするとそれよりも高いと推計していることを知った。これは1人の感染者が平均して3、4人に感染させたことを意味し、標準的なインフルエンザのR0よりも高い。