「年金だけでは老後に生活できない」~国民年金の低年金問題、なぜ政府は必要な制度改革を行おうとしないのか

AI要約

公的年金制度改革を通じて約20年かかる調整過程が2023年度までに完了する予定だったが、低年金問題が深刻化し政府の制度改革が必要とされている状況が明らかになった。

年金制度の改革により基礎年金の給付水準調整が行われ、2023年度以降も年金を継続できることが約束されていたが、状況は予測を下回る可能性がある。

基礎年金の所得代替率が低下する見込みであり、公的財政検証により、制度改革の必要性が示されている。

「年金だけでは老後に生活できない」~国民年金の低年金問題、なぜ政府は必要な制度改革を行おうとしないのか

2004年度に行われた公的年金の制度改革によって、2023年度には「100年安心年金」が実現しているはずだった。しかし、7月3日に公表された公的財政検証によれば、今後も、基礎年金の給付水準調整が必要とされる。その結果、国民年金の低年金問題が、今後さらに深刻化するおそれがある。ところが、政府は、これに対する制度改革を行おうとしない。

政府は2004年に年金制度の大改革を実施した。保険料を引き上げるが、一定のところで止めてそれ以降は引き上げない。また基礎年金への国庫給付金の比率を50%まで引き上げる。他方で、マクロスライドという制度を導入して、年金額を毎年度少しづつ減らしていく。

この調整過程は、2023年度までに完了するとされていた。つまり、約20年をかけて、年金制度を正常化することを約束したのである。

2023年度以降は、保険料率引き上げやマクロ経済スライドを行わなくても、モデル世帯の所得代替率が50%を下回らない年金を、100年以上にわたって継続できることになっていた(「モデル年金」とは、夫が平均賃金で40年間働いたサラリーマン、妻が専業主婦である世帯の年金。「所得代替率」とは、年金受給開始時点(65歳)における、現役世代の平均手取り収入額(ボーナス込み)に対するモデル年金額の比率)。

これが、日本政府が国民に公約した「100年安心年金」である。

その後5年ごとに財政検証が行われて、この公約が実現するかどうかをチェックしてきた。今年の財政検証が、2004年改正の20年後のものだ。つまり、前述の改革がすべて完了し、公約が実現したかどうかをチェックする重要なものとなっているのだ。

では、前項の公約は実現できただろうか? 保険料率の引き上げと、国庫給付金率の引き上げは実現した。それにもかかわらず、「100年安心年金」が実現できるかどうかは、場合によって異なるものになってしまったのである。そして、所得代替率が5割を切る場合もありうる。

とくに問題なのは、基礎年金の所得代替率が低下すると予測されていることだ。これは、5月26日公開の「『専業主婦は普通ではない』『年金は退職後ではない』……年金改革4つの課題」で指摘したことだが、その具体的な姿が、7月3日に公表された財政検証で明らかになった。