ウインナー初の「熟成」タイプで挑む差別化戦略!ソーセージ後発メーカーの巻き返し秘話とは!?

AI要約

丸大食品の看板ブランド「燻製屋」の歴史と成功の裏側に迫る。

愚直に味を追求し続け、熟成技術と素材にこだわった製品開発の試行錯誤。

「燻製屋」の特色JAS認定取得や熟焼調理法など、ブランドの信頼性と魅力に迫る。

ウインナー初の「熟成」タイプで挑む差別化戦略!ソーセージ後発メーカーの巻き返し秘話とは!?

ジュワッとあふれる肉汁の旨さで人気の丸大食品の看板ブランド「燻製屋」。1995年の誕生以来、その本格的な味わいと品質の高さで多くの消費者を魅了し続けているロングセラー商品だ。口コミサイトには、「プリプリでジューシー」「塩味がほどよくおいしい」「燻製の香りが心地よい」といった好評価が並ぶ。

丸大食品の「燻製屋」は、2024年現在、「シャウエッセン」(日本ハム)、「THE GRAND アルトバイエルン」(伊藤ハム)、「香薫」(プリマハム)と競い合うメジャーブランドの地位を確立している。しかし、その成功の裏には愚直に味を追求した汗と涙の歴史があった。

■ ハム・ソーセージ業界では後発だった丸大食品

丸大食品は1954年に創業者の小森敏之さんが大阪市で魚肉の加工・製造販売を始めたことからスタートした総合食品メーカーだ。戦前からハム・ソーセージを手がけてきた「日本ハム」、「伊藤ハム」、「プリマハム」とは異なり、当初は「魚を扱う会社」(魚肉ハム・ソーセージの製造販売メーカー)として創業し畜肉製品を扱っていなかった。しかし1960年代以降、食生活の洋風化の流れが加速するなかで食肉製品に注目し、後発ながらハム・ソーセージの製造販売に挑んだ。

■1980年代後半から激化した王者との戦い

丸大食品の当時の主力商品「丸大ウインナー」は、斬新なCMの影響もあり、子育て層からの支持を集める人気商品となっていた。

しかし、1980年代後半には風向きが大きく変わり始める。特に1985年、日本ハムが「シャウエッセン」を発売したことが、丸大食品のウインナーの売り上げに影響を与え始めた。シャウエッセンの台頭や他社製品の拡大のなかで、丸大食品は当時の看板ブランドであった「ディナー・ドゥ」シリーズのリニューアルを重ねながら戦い続けていたが、徐々に形勢が不利になっていく。逆転を狙う同社は1994年、高級ウインナーソーセージ「ディナー・ドゥ・エクセラ」を発売。本場ドイツ流のボイル調理と音を訴求したシャウエッセンに対して、エクセラは、牛肉(つぶつぶビーフ)を加えた今までにない食感が売りだった。丸大食品は満を持してウインナー決戦に挑んだ。

しかし、テレビCMを大量に出稿したにもかかわらず、「ディナー・ドゥ・エクセラ」の売れ行きは振るわず不振に陥った。この危機的な状況のなかで、従来の製品とは異なる新しいウインナーソーセージを開発する必要に迫られた。その結果生まれたのが、現在でもロングセラーとして人気の「燻製屋」だ。

■全国で戦える新ブランドを!本物志向の消費者の心をつかむ“おいしさ追求”へ

1995年当時、丸大食品は「ディナー・ドゥ」のほかにも、「エルハーベン」など複数のソーセージを製造販売していた。他社製品を凌駕するため、ブランドの強みを総合的に検証し、新商品の開発に取り組んでいた。

「つぶつぶ食感」にこだわった「ディナー・ドゥ・エクセラ」の失敗を受けて、新たな強みを打ち出す必要に迫られるなか、丸大食品が注目したのは「熟成」。「料理の鉄人」などの影響によるグルメブームの中、肉加工品だけでなく、さまざまな食品が、「熟成」をおいしさのキーワードとしてうたっていた時代だった。

そもそも、「熟成」とは肉をより柔らかくし、旨みや香りを引き出すための重要な工程だ。特にウインナー作りにおいては、調味液に漬け込む塩漬け熟成が、原材肉の旨みを最大限に引き出すために欠かせない要素だ。おいしさを徹底追求する丸大食品は、ハムやソーセージの開発において熟成のノウハウを長年に渡って蓄積してきた。そこで「熟成」の技術を応用する方向性での研究が始まった。肉の熟成は、温度が高すぎると腐敗し、低すぎると熟成しないため、熟成温度と熟成時間の調整には試行錯誤が続いた。商品開発には丸大食品が誇る、国家資格であるハム・ソーセージ・ベーコン製造技能士約100人の技術と知識が総動員された。

■愚直に味を追求し続ける「燻製屋」の味へのこだわり

肉の熟成に加えて、肉の味わいを引き立てるためにさまざまな工夫が凝らされた。世界各地から塩を取り寄せて試作する過程で、適度なまろやかさと塩気を両立させることのできるドイツアルプスの天然岩塩「アルペンザルツ」にたどり着く。

また、商品名にもなっている「燻製」にも工夫がある。燻製チップには、本場ドイツで使われるヒッコリーやクルミなどさまざまな木材を試したが、日本人の好みに合わせて桜のチップを使用することで、優しい香りを付加している。この桜の香りが、リピーターを生む隠し味ともいえる。1995年3月、ついに「燻製屋」が誕生した。「燻製屋 二段熟成あらびきウインナー」として最初に発売された製品は、味に対する要求が高まった消費者の心をつかみ、新たに「熟成ウインナー」カテゴリーを切り拓くことに成功した。

■「熟成」を旗印に大手ブランドを猛追!業界初の特定JAS認定取得

丸大食品は1996年、業界で初めて「特定JAS」(農林水産省が定める日本の国家規格)の認定を取得。高まる消費者の品質に対するこだわりと、「熟成」ブームという時代の流れを的確に読み取り、この認定取得にいたった。特定JASマークは農林水産加工品のパッケージに付けられ、国が定めた厳格な規格に基づき、環境や味わいなどさまざまな点にこだわった製法で作られた製品であることを示している。この認定を受けた「燻製屋」は消費者の信頼を一気に高め、丸大食品の先見性が業界の新たなスタンダードを確立するきっかけとなった。現在、主要なハム・ソーセージメーカーの製品の多くが特定JAS(現在は特色JAS)だけでなく特級や上級、標準などさまざまな規格のJAS認定を取得している。

「燻製屋」が開発されていた当時、乱立していた“熟成”と名乗るウインナーが規格化され、72時間以上熟成された商品だけが「熟成」と名乗ることができる「特色JAS」(当時は特定JAS)が、「燻製屋」の発売から1年後に制定された。この規格の第一号が「燻製屋」となり、「熟成ウインナー」の先駆けとして認識された。消費者のニーズと時代を読み取り、“熟成”にこだわったことで、他社とは一線を画す存在となった。

■日本食糧新聞は、当時次のように報じている

丸大食品、業界初の特定JAS認定熟成ウインナー発売

丸大食品(株)は、業界初の特定JASのウインナーソーセージを15日から全国発売した。

従来の品質基準を定めたJASに加えて、製造工程などの「つくり方についての基準」を設け、差別化 を図るという趣旨で導入された特定JASの認定にかねてより「燻製屋シリーズ」を申請中であったが、このほどその申請が認められ、食肉業界初の特定JASのウインナーソーセージ二アイテムを全国販売した。

このウインナーは、「燻製屋シリーズ」の熟成あらびきポークと熟成ロングウインナーで、特定JASの認定を受けた製品としては業界で初めて発売されるウインナー。さらに、特定JAS製品として熟成ロースハム、熟成ももハム、熟成ベーコンの3アイテムも同時に全国販売していく。

「燻製屋シリーズ」は、95年3月に新製品として販売を開始したシリーズで、塩漬肉を低温でしっかり熟成したあと、さらに温度を変えて仕込む二段仕込みという独自の製法によって、肉の旨味を最大限に引き出すことに成功、自然で深みのある味わいに仕上げたシリーズ。

(日本食糧新聞 1996.05.20 8042号 7面)

■「熟成」だけじゃない!見た目にも形へのこだわり

おいしさを追求する一方で、見た目の美しさにも注視しており、ウインナーの形にもこだわっている。「大きさが均一でないとお弁当箱に入りにくい」という顧客からの声に応えるため、天然羊腸の太さが均一な部分だけを使用し、肉の充填方法にも工夫を凝らすことで、他社よりも大きさのバラツキを抑えている。これにより、コストはかかるが顧客の声に真摯に応じるもうひとつのこだわりとなっている。

■珠玉のウインナーをおいしく食べる調理法「熟焼」

同社はよりおいしい食べ方への提案にも力を入れている。その中で特に推奨しているのが「熟焼(じゅくやき)」という調理法。これは丸大食品で伝統的に営業部がプレゼンテーションの際に使っていた「効率的でおいしい」調理法で、具体的には、まずウインナーを蒸し焼きにすることで中まで素早く熱し、ジューシーさのもととなる脂を溶かす。そのあと、フタを外してから焼くことで、適度に皮がパリッと張り、メイラード反応(※糖とアミノ化合物を加熱することによって起こる反応のこと)が起き、芳しい香気成分も生まれる(ボイルではメイラード反応は起きない)。

「熟焼(じゅくやき)」手順

1:フライパンにウインナーと大さじ1杯の水を入れて、フタをして弱めの中火にかける(※油はひかない)。

2:ときどきフライパンを揺らしながら蒸し焼きにして約2~3分。

3:フタを取り、水気がなくなるまでウインナーを転がしながら焼く。表面にツヤが出て、軽く焼き色がついたら完成。

「熟焼」は、味だけでなく、沸騰する時間や油も不要なので、コスパ・タイパにも優れる調理法だ。ウインナーをおいしく食べるには、切込みを入れずに「熟焼」での調理がおすすめだ。

じっくりと熟成された深い味わいとジューシーさが特徴の本商品は、つまみやメイン料理として、どんなシーンでも活躍すること間違いなし。愚直に味を追求し続けたことで生み出された奥深い味わいを堪能してみてはいかがだろうか。