「物価が上がらなければいいのに」と嘆く人たちへ...物価の権威・渡辺努に小幡績が迫る【前編】

AI要約

物価が上がることがなぜ日本に必要なのか。デフレの問題点について、渡辺努教授と小幡績教授が対談。

日銀が物価目標2%を掲げた理由や異次元緩和の成果について議論。

デフレとは、個々の価格が動かなくなることが根本的な問題であるとの見解。

「物価が上がらなければいいのに」と嘆く人たちへ...物価の権威・渡辺努に小幡績が迫る【前編】

物価が上がることがなぜ日本に必要なのか。「デフレ」と称された状態の何が本当の問題だったのか。

著書『物価とは何か』をはじめ、物価研究の権威である渡辺努・東京大学大学院経済学研究科教授。リレー連載「新競馬好きエコノミストの市場深読み劇場」が人気の小幡績・慶応義塾大学大学院教授。2人は東京大学経済学部でゼミの先輩・後輩にあたる旧知の仲だ。

小幡氏は自称「渡辺努ウォッチャー」。かねて物価をめぐる渡辺氏の発信を追ってきたという。「僕もまだ渡辺理論をわかっていないところがあるし、世間ではちゃんと理解されていないと思うので、とことん聞きたい」。

対談のような、インタビューのような2人のやりとりから浮かび上がる、日本経済の根底に巣くう課題とは。前後編でお届けする。

【後編「日銀は「円安」「国債の山」「次の緩和」をどうするか」は7月9日公開予定】

 小幡 そもそも、日銀はなぜ「物価目標2%」を掲げて異次元緩和をしなければならなかったんでしょうか。

 物価がどんどん下落する「デフレ・スパイラル」だったら止めなければならないけれど、日本はせいぜいインフレ率がマイナス1%程度の「微妙なデフレ」だった。

 日銀は2013年から異次元緩和を続けてきましたが、結果論からすると、物価には効かなかったし、ひずみがたくさん出ている。為替レートが円安に行きすぎたこともそうだし、みんなの関心や政策上のリソースがデフレ脱却に注ぎ込まれてしまい、実質の経済成長率をあげるようなリアルな経済の面が手薄になったことは問題です。

■デフレの問題は「個々の価格が動かなくなったこと」

 渡辺 ゆっくりと物価が上がるようになれば、リアルな経済に影響があります。

 多くの人は「デフレのコストは大きくない」って言うんだけど、日本では、平均的な物価の上昇率が0とかマイナス1%になったこと以上に、「個々の価格が動かなくなったこと」が問題だった。そこが、僕の考えが、他の人と違う最大のポイントです。

『物価とは何か』では、ミクロの価格を蚊に、マクロの物価を蚊柱にたとえていますが、蚊が死んでしまったので、蚊柱の動きも止まったというのが私の理解です。物価安定と見間違えてはいけない。