「海の宝石」真珠は日本の重要な水産物 輸出強化、国内でも新たな動き

AI要約

真珠は日本の重要な水産物であり、国内外で高い評価を得ている。特にアコヤ真珠は日本が世界に誇る宝飾品であり、養殖技術は世界的な驚異とされている。

真珠の輸出額は急激に回復し、特に香港などへの輸出が多い。国内の生産量は減少しており、新種のウイルスが原因とみられているが、生産量の回復が期待されている。

最近では男性や若者向けの真珠ジュエリーも増えており、日常で身に着けやすいデザインが人気を集めている。

「海の宝石」真珠は日本の重要な水産物 輸出強化、国内でも新たな動き

 「海の宝石」と呼ばれ、独特の輝きを放つ真珠は、実は日本の重要な水産物だ。輸出も促進し、海外で高い評価を得ている。結婚式などで女性が身に着けるのが定番だが、近年は男性や若者など幅広い層に浸透を図っている。真珠の現状と魅力などに迫った。(時事通信水産部 岡畠俊典)

◆真珠養殖は「世界の驚異」

 日本の海で養殖される真珠は、世界に誇る宝飾品だ。1893年7月、宝飾大手ミキモト(東京)の創業者、御木本幸吉氏が三重県で真珠養殖に世界で初めて成功。1927年、発明家のエジソンは、面会した御木本氏に対し「私の研究施設で試みて、どうしてもできないものが二つある。一つはダイヤモンドで、もう一つは真珠です」と話し、不可能とみられていた養殖真珠の発明を「世界の驚異」と称えたとされる。

 日本で生産されるのは、母貝のアコヤガイで育てる「アコヤ真珠」が主流だ。貝殻を丸く削った核を母貝に入れ、貝の体内で分泌された層が何重にも巻かれて厚みを増し、真珠となる。1~2年かけて海中で養殖され、例年12月~翌年2月に浜揚げされる。ミキモトの八木千恵・広報宣伝部長は「日本の四季による寒暖差で、美しく輝く真珠が出来上がる。海水温が下がる冬に、緻密な真珠層を巻いて光沢が増し、照りや色目といった特長が最も現れる」と説明。形やサイズ、色などにも厳しい基準を設けて選別し、品質を保っている。

 宝飾店に並ぶほとんどの真珠は、養殖されたものだ。アコヤ真珠は直径が最大で約10ミリといわれる。キラキラと輝くダイヤモンドなどの鉱石と異なり、自然の海で生きた貝から育まれる真珠は「柔らかい光で、身に着けている人を照らしてくれるようなやさしい輝きを放つ」(八木広報宣伝部長)のが魅力という。

◆輸出額が急激に回復

 農林水産省などの統計によると、真珠(天然・養殖)の輸出額は、新型コロナウイルス下の2020年に大きく落ち込んで76億円となった。その後は回復し、23年は約456億円に急増。水産物輸出額全体の11.7%を占め、トップのホタテガイに次ぐ2位だ。このうち香港への輸出が8割以上を占める。中国の富裕層などからも人気が高く、日本真珠振興会(東京)の田坂行男専務理事は「日本産の品質の高さが海外でも評価されている」と説明する。今後は米国や東南アジア向けの輸出拡大も視野に入れる。外国人観光客が銀座などで購入することも増えているという。

 海外の需要が高まる一方で、国内の生産量は減少している。19年夏以降、主産地の愛媛県や三重県などで、新種のウイルスが原因とみられるアコヤガイの大量死が発生。農水省の統計によると、真珠の養殖生産量は2010年代に年間20トン前後で推移していたが、昨年は12トンにまで落ち込んだ。供給不足が続き、産地の取引価格は高騰。特に良質な真珠が手に入りにくくなり、ここ数年で店頭の製品価格が2倍近く値上がりしたケースもあるという。

 供給量を増やすためには「アコヤガイの生残率を上げる必要がある」と田坂専務理事。養殖生産量が今後回復するかはまだ不透明だが、産地の養殖場では定期的に海水を検査してウイルス感染を防ぐ対策が進められている。水産庁栽培養殖課は、効果が現れれば「生産量が上向く可能性はある」とみている。

 真珠養殖は、SDGs(国連の持続可能な開発目標)に配慮した取り組みも早くから進めている。アコヤガイから真珠を採取した後は、貝肉を食用で販売したり、貝肉や貝殻から抽出した成分を使った化粧品を製造したりするなど幅広く活用している。東京・豊洲市場(江東区)では、少ないながら食用の貝柱が取り扱われることがあり、天ぷら店などで使われるという。

◆男性や若者にも

 「大人の女性」向けのイメージが定着している高級品の真珠に、消費者向けには新たな動きが出てきた。ミキモトは数年前から、男性や若年層も日常で身に着けやすいジュエリーも手掛けている。同社は2020年、若者を中心に支持されるファッションブランド「コムデギャルソン」と共同で、「男性が真珠をつける」をテーマに開発した製品を発表した。

 当時はコロナ流行で宝飾品業界も厳しい状況に見舞われたが、評判を呼び、買い求める男性客が増えたという。ミキモトはこれを機に、ジェンダーにとらわれないデザインを展開するようになった。八木広報宣伝部長は「男性がパールを身に着けることに抵抗がなくなった。女性が主役だった真珠の歴史の中でも大きな変化で、新たな価値が生まれた」と語る。

 耳に引っ掛けて手軽に装着できる、パールを使った「イヤーカフ」も人気を集めている。3万円台で買える手頃なものもあり、女性に限らず男性へのギフトの需要もあるという。ミキモトの八木部長は「貴重な美しい真珠の魅力を改めてたくさんの人に知ってもらい、自由に楽しみながら身に着けてもらいたい」と強調。相棒のように人生に寄り添い、心を豊かにする存在になることを望んでいる。真珠への関心が高い豊洲市場関係者もおり、ファッション好きの豊洲関係者は「これまで女性向けの印象だったが、男性も個性を演出できるのでは」と期待している。