さらばいとしの「フィアット500」! 希代の愛されキャラがたどった輝かしい足跡と未来

AI要約

現行“チンクエチェント”の日本国内終売がアナウンスされ、16年間に渡る愛着と喪失感が生まれる。

2004年にコンセプトモデルが公開され、2007年のデビューから大人気となった3代目チンクエチェントの魅力。

イタリアの祭りやグローバルでの人気を経て、2代目に引けを取らない愛されるクルマに成長したチンクエチェント。

さらばいとしの「フィアット500」! 希代の愛されキャラがたどった輝かしい足跡と未来

いずれその日がくることは、頭ではもちろんわかってはいた。けれど、いざそのときを迎えてみると、なんともいえない寂しさが生まれてくる。それと並行して、一度もオーナーになったことがなく、うっすらボンヤリ“いずれ一緒に暮らしたいな”なんて考えていたところもあったから、自分のうかつさに軽く落胆してたりもする。なんせこの16年間に、覚えているだけで軽く3万kmを超える距離を試乗している。どれほど味わい深いヤツなのかもわかったつもりでいるから、僕の喪失感にも似た気分はちょっとばかり複雑だ。

そう、現行“チンクエチェント”の日本国内終売がアナウンスされちゃったのだ(参照)。ディーラーが在庫してるクルマが売り切れたら、もう新車で買うことはできない。

思えば僕は、「フィアット500」としては(全然関係ないクルマだった「Fiat Cinquecento」を除くと)3代目にあたる現行チンクエチェントがデビューした2007年から、いや、違うな、それ以前にコンセプトモデルが公開された2004年から、ずっとこのクルマにひかれてきたような気がする。たとえるなら「少~し愛して、長~く愛して」みたいなものだ。……古いか。

ともあれ、2004年のジュネーブショーで初公開された「コンセプト トレピウーノ」からは、かなりの衝撃を受けた。誰もが希代の名車として認める御先祖さま、“ヌォーヴァ500”こと2代目チンクエチェントの世界観まるっきりそのままに、けれど大幅にモダナイズさせたスタイリングとデザイン……。欲しいクルマのベスト10はすべてアホみたいに速いスポーツカーだったりして、懲りも飽きもせずスピードとの親和性が高いクルマにひかれていた惑いっぱなしの不惑だった僕だけど、トレピウーノの写真を見た瞬間、「年を重ねてスピードへの欲求が薄らいできたらコレに乗りたいな」なんて、思ったことを強く覚えている。

もっと強烈だったのは2007年7月4日、つまり2代目フィアット500の50回目の誕生日に行われた発表会だ。いや、あれは発表会なんていう生やさしいモノじゃない。新しいチンクエチェントの誕生を祝う、国を挙げての祭りだった。

フィアットのお膝元であるトリノの街を悠然と流れるポー川の河川敷に、7000人規模のスタンドを設置。向こう岸と川面を使って、2006年トリノオリンピック開会式を手がけたディレクターによるフィアット500の水上ショーや壮大な花火が披露された。その模様はイタリア全土に同時中継され、またトリノ市内のありとあらゆる広場という広場は、ヨーロッパ中から集まった2代目チンクエチェントで埋め尽くされた。

街を歩いて店のショーウィンドウをのぞけば、商品と一緒にチンクエチェントのモデルカーやパーツがディスプレイされていたり……。イタリアの誰も彼もが、3代目チンクエチェントの誕生を盛大に祝福していたのだ。そんなクルマ、ほかにある?

そうしたイタリアの人たちの期待感を裏切ることなく、3代目チンクエチェントは発売と同時に大人気となり、それこそ本物のセレブリティー、免許を手に入れたばかりの若い娘、クルマ好きの青年、かつて2代目チンクエチェントのオーナーだったジイさん……と、立場や世代を超えて支持された。程なくしてそれはグローバルに波及し、世界中で人気者となったのだ。

先祖である2代目は、1957年から1975年までの18年間で368万台近くがつくられている。この3代目は、2007年から14年を経た2021年の段階で累計250万台を記録。それから3年のデータが見つけられなくて恐縮だけど、売れ行きがものすごく鈍ったという話は聞いたことがないから、もっと台数を伸ばしているのは確実だ。1950年代末期と比べれば現代は驚くほど選択肢が多い時代となっているわけで、それを考えたら2代目に勝るとも劣らないくらい愛されてきたといえるんじゃないか? 日本においても2008年の導入開始から約13万台が販売されており、もちろん全国各地のクルマのイベントに足を運ぶと、老若男女さまざまな人たちが思い思いの仕様にした愛車を並べているのを見ることになる。

いまさら3代目チンクエチェントの魅力をクドクド語るつもりもないけれど、ナゴミ系のルックスに意外やスポーティーな走りのテイスト、ジャストフィットなサイズ感などなど、“愛されキャラ”である理由なんて山ほどある。