「徴兵制」への一里塚、英スナク首相がぶち上げた「社会奉仕か軍務か」を迫るナショナルサービス復活という選挙公約

AI要約

リシ・スナク英首相が、国家奉仕モデル「ナショナルサービス」を提唱し、若者への支援を訴えている。

かつての英国ナショナルサービスは徴兵制であり、戦後の英国の軍事的なコミットメントに対応するために導入された。

現在では、英軍の兵員不足や紛争への備えとして市民軍の構想が議論されている。

 (国際ジャーナリスト・木村正人)

■ 「ナショナルサービスは若者が国に貢献する方法」

 [ロンドン発]7月4日総選挙を表明したリシ・スナク英首相から5月26日「選挙に勝ったら、18歳全員を対象とした新しい国家奉仕モデル『ナショナルサービス』を導入する。その理由は皆さんとその家族のために確かな未来を築きたいからだ」という電子メールが届いた。

 「直面する課題に正面から取り組むために必要な大胆な行動をとることが必要だ。私たちが直面する最大の課題の一つは若者たちが彼らにふさわしい機会を得られるように支援することだ」。解散・総選挙に合わせて唐突に国家奉仕を持ち出すのは正気の沙汰とは思えない。

 「多くの若者が人生のチャンスを手にしていない。彼らは新しいスキルを身につけたいと思っても何から始めればいいのか分からないことがあまりにも多い。だからこそ私たちは若者により確かな未来を与えるために大胆な行動を起こす」

 「ナショナルサービスは若者が新しいスキルを身につけ、国に貢献し、人生を切り開くための方法だ。しかし、それは皆さんの支援があってこそ実現する」と選挙資金として1~25ポンド(約200~5000円)の寄付を呼び掛けている。これは何かのブラックジョークなのか。

■ かつてのナショナルサービスは「大戦後の徴兵制」

 英国のナショナルサービスは第二次世界大戦時に導入された徴兵制で、戦後も急激に変化する国際情勢に対応するため「平時の徴兵制」として身体的に健康な17~21歳の男子すべてを対象に継続された。戦後、徴集兵は当初18カ月間服務したが、朝鮮戦争(1950~53年)の間は2年間に延長された。

 49年から、ナショナルサービスが廃止された63年までに200万人以上が英陸海空軍に徴兵された。大戦が終わっても英国の海外における軍事コミットメントが終わったわけではなかった。英国は崩壊しつつある帝国を支え、世界、特に中東における影響力を再構築する必要があった。

 米ソ冷戦で英国でも兵員の増強が求められる中、インド独立で英国は巨大なインド軍を使えなくなった。ナショナルサービスはこうした兵員不足を解消するため導入され、訓練を受けた徴集兵は世界各地の英軍駐屯地に送られた。当時植民地だったケニアやマラヤではゲリラと戦った。

 ロシアのウクライナ侵攻、ドナルド・トランプ前米大統領の返り咲きの可能性が強まる中、英軍のパトリック・サンダース陸軍参謀総長は今年1月「英国が紛争に巻き込まれる場合に備え、市民を訓練して装備を整え、市民軍を創設する必要がある」と徴兵制論議を呼びかけた。