韓国真実和解委員長、老斤里事件は「違法ではない…戦争中の付随的被害」

AI要約

真実和解委のキム・グァンドン委員長が非公開の全体委員会で、老斤里事件を「違法な犠牲ではなく付随的被害」と表現し、謝罪を求められる事態となっている。

老斤里事件は、朝鮮戦争期に米軍によって発生し、多数の民間人が犠牲となった事件である。これに対して、委員長の発言は物議をかもしている。

キム委員長は過去の戦争犠牲者に対して疑念を示し、真実究明を怠っていると批判されている。その姿勢が問題視されている。

韓国真実和解委員長、老斤里事件は「違法ではない…戦争中の付随的被害」

 「老斤里(ノグンニ)事件は違法な犠牲とは考えていません」

 「はい? 違法ではないですって?」

 「戦争中の付随的被害だと思います」

 真実・和解のための過去事整理委員会(真実和解委)のキム・グァンドン委員長が非公開の全体委員会で、老斤里事件について「付随的被害」だと発言していたことが確認された。朝鮮戦争期の米軍によって民間人が犠牲となった代表的な事件で、韓国で特別法まで制定され、真相の究明された事案について、過去事の真実究明に責任を負う国家機関の長が、犠牲の違法性を真っ向から否定したわけだ。同席していたある委員は「委員長の座から降りなければならない発言」とまで述べたという。遺族会長は直ちに謝罪するよう求めている。

 29日のハンギョレ取材の結果、真実和解委のキム・グァンドン委員長は前日午後に非公開で行われた第79回全体委員会で、朝鮮戦争期の「咸平(ハムピョン)の軍と警察による民間人犠牲事件(4)」(咸平事件)を審議中に、老斤里事件に言及した。キム委員長は「咸平事件」の犠牲者のAさんについて「パルチザンの根拠地である軍遺産に入っており、警察の討伐作戦中に死亡したなら、犠牲者と認定するのは困難なのではないか」と述べた。野党推薦のイ・サンヒ委員に「Aさんは避難した先で死んだ。老斤里事件も避難民を殺したのだ。戦争中に民間人を虐殺してもよいというのか」と問いただされると、キム委員長は「老斤里事件は違法な犠牲ではない。付随的被害」だと答えた。

 老斤里事件とは、1950年7月25日から29日にかけて、忠清北道永同郡永同邑下加里(ヨンドングン・ヨンドンウプ・ハガリ)および黄澗面(ファンガンミョン)老斤里一帯の線路上または双窟(サングル)にいた250~300人の避難民が、米軍の飛行機からの爆撃、機銃掃射、短機関銃射撃によって犠牲となったもの。老斤里事件の際、線路上で米軍の爆撃を受け、祖母、母親、きょうだいを失った老斤里犠牲者遺族会のヤン・ヘチャン会長(84)はハンギョレに、「子どもや老人、弱者、女性たちを避難させてやると言って連れて行き、実に4泊5日間も殺したのに、どうして偶発的で付随的な事件になりうるのか。その間に故意なく虐殺が起こりうるのか。キム委員長は滅茶苦茶なことを言っていないで遺族に直ちに謝罪せよ」と述べた。

 「付随的被害(Collateral Damage)」とは、米国が老斤里事件を含む米軍によって世界各地で引き起こされた民間人虐殺事件の性格を規定する際に使ってきた表現だ。簡単に言うと「戦争中の民間人の死亡は避けられなかった」という意味だ。韓国国防部と米国防総省はそれぞれ老斤里事件を調査し、2001年1月12日に共同で発表をおこなっているが、「米軍は1950年7月の最後の週に老斤里周辺で数未詳の避難民を殺傷した」と述べただけで、違法性については言及していない。事件の展開過程や犠牲者数などを明らかにした韓国国防部の報告書とは異なり、米国側の報告書は射殺命令についての事実関係はもちろん、死者の数も明らかにしていない。報告書諮問団に参加した9人の民間専門家の1人、朝鮮戦争参戦軍人だったピーター・メクロスキー元議員は「真実が隠されている」と非難している。

 2004年の老斤里関連特別法の制定後、首相室の下に発足した「老斤里事件犠牲者の審査および名誉回復委員会」は2005年、2008年、2022年の3回にわたって228人を犠牲者として公式に認めている。2001年には米国のクリントン大統領が「老斤里で韓国の民間人が命を失ったことに対して深い遺憾の意を表する」との声明を発表し、慰霊碑の建立と犠牲者の子女の奨学金として使われる慰労金の支給を表明したが、遺族は断っている。

 一方、与党推薦のイ・オンナム常任委員は28日の全体委で、老斤里の避難民についての発言の発端となった咸平事件のAさんについて、「討伐作戦中の警察によって犠牲になったという文章だけを見ると、1期目も今も真実究明は不可能」だとキム委員長を擁護した。これに対してイ・サンヒ委員は、「犠牲者が武装していない民間人なら、戦闘中だったとしても真実糾明を決定しなければならない」とし、「今、委員長は武装していない被害者が犠牲となった老斤里事件について違法ではないと言った。付随的被害だと言った。深刻な国際法違反発言だ」と指摘した。同じく野党推薦のホ・サンス委員も、「付随的被害というのは軍事的必要性を前提にしなければならない。そのような視点であれば、委員長の座を降りるべきだ」と述べた。

 キム委員長はこのかん、朝鮮戦争期の軍や警察による民間人犠牲事件について、真実究明ではなく被害者が反逆の加担者かどうかの審査に没頭してきたと評価されてきた。真実和解委のある関係者は、「キム委員長は、軍や警察による民間人の犠牲については何とか軍や警察の立場に立って付随的被害のように扱おうとしていると感じる」と語った。

 キム委員長は昨年6月9日の永楽教会での講演で、「侵略者に立ち向かって戦争状態を平和状態にするために軍人と警察が招いた被害に対して、(犠牲者)1人当たり1億3200万ウォンの補償をおこなっている。このような不正義は大韓民国で初めて見た」と述べている。10月10日に永川(ヨンチョン)の遺族会長と会った際には、「戦時には裁判なしに人を殺すこともありうる」と述べて物議をかもしている。最近では、根拠のまったくない警察の査察記録に頼って、わずか13、14歳の珍島(チンド)の民間人犠牲者を「暗殺隊員」と見なして真実究明を先送りしている。

 真実和解委はこの日の全体委で、咸平事件の46人(37件)について真実究明(犠牲者確認)を議決した。キム委員長が問題視したAさんも、論争の末、この中に含まれている。Aさんを含む46人は咸平郡孫仏面(ソンブルミョン)や新光面(シングァンミョン)などに居住していたが、1949年4月から1951年2月にかけて、反逆に加担した疑いがある、左翼活動家の家族である、などの理由で、国軍第11師団第20連隊の兵士と咸平警察署および管轄の支署に所属する警察官によって犠牲となっている。

コ・ギョンテ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )