「中国の戦術はずる賢い」…バイデンの「中国製EVへの関税引き上げ」が「日本の自動車業界再編」を迫る「納得の理由」

AI要約

米通商代表部(USTR)は中国製の電気自動車(EV)に対する関税を引き上げる方針を発表した。バイデン政権は対中姿勢を強化し、大統領選挙を有利に進める狙いがある。

中国はこの措置に反発し、EUやカナダも中国製EVに苛立ちを示し、対抗措置の可能性が浮上している。

バイデン政権は中国製品に幅広い対抗措置を検討中であり、米国以外の他国や日本にも影響を及ぼすことが懸念されている。

「中国の戦術はずる賢い」…バイデンの「中国製EVへの関税引き上げ」が「日本の自動車業界再編」を迫る「納得の理由」

 米通商代表部(USTR)のタイ代表は先週水曜日(5月22日)、米産業界からの意見聴取を経て、8月1日から、中国製の電気自動車(EV)に対する輸入関税率の100% (現行の25%の4倍)への引き上げなどを実施する、と発表した。この措置は、先のバイデン米大統領の指示に従ったもので、米通商法の301条に基づく対応となっている。

 バイデン氏の狙いは、ライバルのトランプ前大統領よりもより厳しい対中姿勢を鮮明にすることによって、米製造業の労働者らの支持を取り付け、今年11月に迫った大統領選挙を有利に進めることにある。通商法301条の基づく制裁関税の賦課そのものは、トランプ氏が大統領時代の2018年に打ち出した措置で、今回、レビューの時期を迎えていた。バイデン氏は、より広い分野の中国製品を対象により税率の高い制裁関税を課す方針を打ち出した。

 予期されたことだが、中国商務省はこうした措置に対して猛反発、「自国権益を守るため、断固たる措置をとる」と主張、4年前に続いて再び強い対抗措置を採る構えを見せている。

 しかし、中国製EVについては、米国だけでなく、欧州連合(EU)やカナダも苛立ちを強めている。特に、EUのフォンデアライエン欧州委員長も今月6日のマクロン・仏大統領と習近平・中国国家主席との3者会談で、中国が補助金で不当な支援していると指摘したうえで、「改善しなければ、対抗措置を取る」と強硬だ。米国の措置は、EUの追随を確実にし、世界的な制裁関税の引き上げ合戦と保護主義の嵐を招くきっかけになりそうなのだ。

 そして、そうなれば、欧米や中国に比べて自国の自動車市場の規模が小さい日本は難しい立場に陥り、日本の自動車メーカーは厳しい対応を迫られることになりかねない。

 5月22日までの発表によると、バイデン大統領は、タイUSTR代表に対し、米国の労働者と企業を保護するという名目で、中国からの180億ドル相当の輸入品に対する関税の引き上げを指示していた。関税引き下げの根拠になる法律は、他国が知的財産権の侵害や不公正な貿易慣行を行い、米国企業や米労働者に不当な不利益を与えた場合に、制裁関税を課すとしている米通商法の301条だ。

 これを受けて、USTRは今回、EVへの100%関税を含む幅広い産品への関税引き上げ策をまとめた。EV以外で、今年8月1日からの関税引き上げの対象になっているのは、注射器・注射針(現行の0%を50%に引き上げ)、太陽光パネル(現行の25%を50%に引き上げ)、港湾用クレーン(現行の0%を25%に引き上げ)、鉄鋼・アルミ製品・マスク(現行の0~7.5%を25%に引き上げ)、EV用バッテリー(現行の7.5%を25%に引き上げ)といった中国製品だ。

 半導体は汎用品が対象で、現行の関税率25%を来年(2025年)1月1日から50%に引き上げる。

 また、代替品の中国以外からの調達が難しいとされ、現行は輸入関税率が0%となっている黒鉛と永久磁石については、再来年(2026年)1月1日から25%に引き上げるとしている。

 8月1日から新関税率を適用する予定の産品については、6月28日までに米国企業から代替品の調達が困難だといった申請があれば、例外措置として来年5月31日までの間、中国産品の制裁関税免除での輸入を認めることがあり得るとしている。

 こうした制裁関税の引き上げの大義名分は、中国が長年にわたって米国の知的財産権を侵害してきただけでなく、不公正な補助金の支給や、市場への介入によって米産業界を圧迫してきたことに対抗するというものだ。

 繰り返すが、こうしたことを規定している通商法301条が根拠だが、今回の措置を通じて、バイデン政権としてはEVや太陽光発電といった分野での米国企業の国際競争力を確保して気候変動対策に役立てる目的もある、と説明している。

 バイデン大統領は5月14日のホワイトハウスでの記者会見で「中国の戦術は競争ではない。競争を否定するずる賢い行為だ。米国にその被害が及ぶのをわれわれは目にしてきた」と、中国を厳しく批判することによって、今回の措置に正当性があると強調した。

 とはいえ、バイデン大統領がハラの中で、この秋の大統領選を睨んでいることも透けている。というのは、関税引き上げ対象の中国産品が選挙戦の趨勢を左右されるとされる激戦州の製造業の労働者を意識していることが明らかだからだ。具体的に言えば、EV関税の引き上げは自動車メーカーの集中するミシガン州の労働者の取り込みを、鉄鋼製品はペンシルバニア州の鉄鋼メーカーの労働者の取り込みをそれぞれ、目論んでいることが露骨に見てとれるからだ。