実験体にされた子供たち…英国「薬害エイズ事件」が解決しないのは「階級社会」「否定の文化」のせい?

AI要約

1970年から91年にかけて、英国で起こった医療災害により、3万人以上の人々がHIVや肝炎に感染し、3000人以上が死亡した。この事件では、患者が故意にリスクにさらされ、感染が隠蔽されたことが明らかになった。

特に、ハンプシャー州の医療施設では多くの血友病患者が実験の被験者として扱われ、HIVや肝炎に感染した。多くの子供たちが感染し、生存者はわずか30人程度だった。

新たに開発された治療法が「魔法の薬」と称され、患者たちは感染リスクを知らされずに投与された。しかし、この治療法により多くの人々が被害を受け、苦しんだ。

実験体にされた子供たち…英国「薬害エイズ事件」が解決しないのは「階級社会」「否定の文化」のせい?

[ロンドン発]英国で1970~91年にかけ、汚染された血液製剤や輸血で3万人以上の人々がヒト免疫不全ウイルス(HIV)や肝炎に感染し、約3000人が死亡したNHS(国民保健サービス)史上最悪の医療災害で調査委員会は5月20日、5年にわたる調査の最終報告書を公表した。

最終報告書は「この医療災害は回避することが可能であり、回避されるべきだった。患者は故意に『容認できないリスク』にさらされた」と結論付けた。さらに英国政府、医師、NHSが感染を隠蔽しようとしたと非難した。

英南部ハンプシャー州の医療と教育を同時に行う施設「トレロアーズ」の血友病センターでは多くの出血性疾患の子供たちが治療を受けていた。70~80年代にかけ、このセンターの子供たちはほぼ全員がHIVや肝炎に感染し、生き残ったのは122人のうち約30人に過ぎない。

出血性疾患の子供たちが集まったトレロアーズは「さまざまな種類の治療に関する広範な臨床試験の機会と施設を提供できる英国で唯一の施設」と呼ばれるようになった。子供たちは十分なインフォームド・コンセント(説明と同意)がないまま血液製剤の実験材料に使われた。

■「魔法の薬」と呼ばれた濃縮凝固因子製剤

特定の製品の使用を求める家庭医の要望を無視し、異なる製品や同じ製品の異なるロットの大量の血液製剤が子供たちに投与された。79年に1種類の製品しか投与されなかった子供は1人だけだった。血液や血液製剤を介してウイルスに感染する危険性があることはよく知られていた。

トレロアーズを生き延びた子供は75年ごろ、何人もが黄疸で黄色くなったのを覚えている。80年代になって後天性免疫不全症候群(エイズ)が血液を介して感染する危険性が明らかになった。エイズに関する報道が始まると図書館から新聞が隠された。

85年には子供37人がHIVに感染していた。

悲劇はトレロアーズにとどまらない。自分や愛する人を助けるはずだった輸血や血液製剤が多くの人生を破壊した。「私たちや私たちの愛する人たちが苦しまなければならなかった本当の痛みや苦悩を一般の人たちが目にすることは決してないだろう」(証言者ピート・バーニー氏)

新たに開発された濃縮凝固因子製剤による治療は「天の恵み」と血友病患者は考えた。感染リスクについて何も知らされず、血友病の子供たちは外に出て遊べるようになる「魔法の薬」を喜んだ。凝固因子の投与で出血が止まると関節の痛みが消え、動き回れるようになる。