高成長維持へ、問われる手腕 カリスマ主導から調整型に 「リー家」以外の首相就任・シンガポール〔深層探訪〕

AI要約

シンガポールの新しい首相であるウォン氏が就任しました。シンガポールはリー家の指導により経済成長を遂げ、金融・貿易ハブとして成功を収めましたが、少子高齢化や緊迫する国際情勢などの課題に直面しています。新しい首相はこれらの難題にどう対処するかが注目されています。

シンガポールの経済は過去20年で急拡大し、GDPは3.4倍になりました。国は米中と等距離に立ち、両国からの投資や人材を取り込むことで成功を収めてきました。しかし、米中対立や少子高齢化などの課題が増しています。

新首相はリー家とは異なる対話重視の指導スタイルを掲げ、経済政策を重視していくことを表明しています。ただし、国内の不満や所得格差などの問題に対処できなければ、支持を失う可能性もあります。

高成長維持へ、問われる手腕 カリスマ主導から調整型に 「リー家」以外の首相就任・シンガポール〔深層探訪〕

 東南アジア随一の経済立国、シンガポールの4代目首相に副首相を務めてきたローレンス・ウォン氏(51)が15日、就任した。カリスマ性が高い故リー・クアンユー初代首相、リー・シェンロン前首相(72)父子らがけん引して同国は金融・貿易ハブ(拠点)として「奇跡的な成長」(ウォン氏)を遂げた。しかし、急速な少子高齢化や緊迫する国際情勢など国を取り巻く環境は厳しさを増している。「脱リー家」の転換点を迎え、官僚出身で調整型とされるウォン氏がいかに難題に対処し、高成長路線を維持していくのか、手腕が試される。

 ◇20年でGDP3.4倍

 「過去20年でわが国は大いに発展した。経済を変革し、向上させる戦略が奏功した」。リー・シェンロン氏は退任前、成果を強調した。

 2023年の同国国内総生産(GDP)は6733億シンガポールドル(約78兆円)と、リー氏が首相に就任した04年から3.4倍に急拡大。世界銀行によると、22年の1人当たりGDPは8万2800米ドル(約1300万円)と日本の2.4倍に達し、世界屈指の富裕国になった。

 成功の要因の一つは、2大超大国である米中と等距離で付き合い、双方から巨額の投資や人材を呼び込んできたことだ。シンガポールは華人系が国民の7割以上を占め、中国に親近感を抱く人が多いが、安全保障では米国と連携する。米中対立の激化で中立外交は一層難しくなっているが、ウォン氏は就任時の演説で「米中間で問題が起きても、双方への関与を続ける」と断言した。

 ◇くすぶる不満

 国内では、少子高齢化に直面する。65歳以上の高齢化率は23年の19%から、30年には25%まで上昇する見通し。合計特殊出生率は23年に0.97と初めて1を割り込み、世界最低水準とされる韓国に迫る。移民受け入れ拡大が処方箋となり得るが、移民増加には「雇用を奪われる」と反対する声が根強い。

 所得格差も広がり、不公平感がくすぶる。与党は1965年の建国以来、一党支配を貫いてきたが、国民の不満にうまく対処できないとウォン氏は求心力を失う恐れがある。25年11月までに総選挙(一院制)が実施される予定だ。

 ウォン氏は一般家庭で育ち、官僚を経て政界入り。調整能力の高さで定評がある。就任演説で、「われわれの指導スタイルは前世代と異なる。自分たちのやり方でやる」と力説。リー父子と違った対話重視の集団指導体制によって繁栄維持に努める決意を示した。経済政策重視のため、財務相兼務を続ける。(シンガポール時事)