「終末の氷河」のはるか下を調査、壊滅的な海面上昇招く可能性 国際研究チーム

AI要約

南極のスウェイツ氷河が融解スピードを加速し、崩壊へ向け不可逆的な道をたどっている可能性が指摘される。

科学者の調査により、スウェイツ氷河の後退が急速に進行しており、海面上昇に壊滅的な影響をもたらす可能性があることが示唆される。

過去の研究により、1940年代に急速な融解が始まった可能性が高く、現在の氷河の危機は長い歴史を持つことが判明している。

「終末の氷河」のはるか下を調査、壊滅的な海面上昇招く可能性 国際研究チーム

(CNN) 「終末の氷河」と呼ばれる南極のスウェイツ氷河は融解スピードが加速しており、崩壊へ向け不可逆的な道をたどっている可能性がある――。破氷船や水中ロボットを使用する科学者のチームが、そんな見解をまとめた。世界の海面上昇にとって壊滅的な意味合いを持つ。

調査プロジェクト「国際スウェイツ氷河共同研究(ITGC)」を構成するチームは2018年以来、スウェイツ氷河の崩壊がいつどのように起きる可能性があるか理解を深めるため、詳しい調査を行ってきた。

一連の調査結果は、この複雑で変化を続ける氷河について、これまでで最も明快な認識を提供している。科学者らは19日発表の報告書で、見通しは「厳しい」と指摘し、6年間にわたる調査の主な結論を明らかにした。

調査の結果、急速な氷の消滅は今世紀でさらに速度を増す見通しであることが判明。英南極観測所の海洋地球物理学者で、ITGCの一員でもあるロブ・ラーター氏によると、スウェイツ氷河の後退はここ30年で大幅に加速しているという。

科学者らは、スウェイツ氷河と南極氷床が200年以内に崩壊し、壊滅的な影響をもたらす可能性があると予測する。

スウェイツ氷河には海面を60センチあまり上昇させる水が含まれている。ただ、広大な南極氷床をせき止めるコルクのような役割も果たしていることから、最終的に約3メートルの海面上昇につながり、米マイアミから英ロンドン、バングラデシュ、太平洋諸島まで世界の沿岸地域に壊滅的な打撃を与える可能性がある。

科学者はかねてスウェイツ氷河の脆弱(ぜいじゃく)性を認識していた。その理由の一端は地理的な条件にある。氷河を支えている土地は下へ傾斜しており、氷河が融解するにつれ、より多くの氷が比較的暖かい海水にさらされるようになる。

しかしこれまで、氷河後退のメカニズムについてはそれほど理解が進んでいなかった。ITGCは声明で「南極大陸は今なお、将来の海面上昇を理解・予測する切り札だ」と指摘している。

ここ6年間、科学者は様々な実験を通じてより明確な認識を得ようと努めてきた。

研究チームは「アイスフィン」と呼ばれる魚雷型ロボットを、スウェイツ氷河の主な脆弱点である接地線(氷河が海底から隆起し、海に浮き始めるポイント)に送り込んだ。

米ポートランド大学の氷河学者、キヤ・リバーマン氏は、接地線まで泳いだアイスフィンから送られてきた最初の映像は感動的だったと振り返る。「氷河学者にとっては、月面着陸が社会に与えた影響に匹敵するほどの感情的インパクトがあった」「大きな一歩だった。初めてこの場所を目にしたのだから」

アイスフィンから送られてきた画像を通じ、研究チームは氷河が思いもよらない形で融解してることを発見。暖かい海水が氷の深い亀裂や、「階段状」の地形を通って流入しうることを突き止めた。

別の調査では、人工衛星や全地球測位システム(GPS)のデータを活用し、潮の影響を調べた。海水はスウェイツ氷河の9.6キロあまり下まで入り込み、氷の下から暖かい海水を押し出して、急速な融解を引き起こしていた。

ただ、多くの科学者はスウェイツ氷河の歴史を掘り下げた。米ヒューストン大学のジュリア・ウェルナー教授らのチームは、海底堆積(たいせき)物のコアを分析して氷河の過去を再構築し、急速な融解が始まったのが1940年代であることを発見。非常に強力な「エルニーニョ現象」がきっかけになった可能性が高いとの見解を示している。