解けるペルーの氷河、影響はアルパカにも...枯渇する水源と地域の人々の現状とは

AI要約

ペルーの熱帯雨林にある熱帯氷河が急速に縮小している。気候変動や鉱山開発の影響が指摘されている。

氷河の減少が地元のケチュア族にとって暮らしに影響を及ぼし、氷河を守るための取り組みが行われている。

子どもの頃から氷河の状況を知り、研究者と共に氷河の調査に参加するダビドの姿が紹介されている。

解けるペルーの氷河、影響はアルパカにも...枯渇する水源と地域の人々の現状とは

熱帯雨林に覆われたペルーの高地には、意外にも「氷河」がある。しかしペルーの熱帯氷河は急速に縮小しているという。気候変動が主な原因といわれるが、鉱山開発への危機感も募る。写真家の林典子さんが、解けて縮む氷河が現地の人々の暮らしに与える影響や、その解決策を模索する姿を取材した。(文中敬称略)

ペルー南東部カンチス郡。アンデス高地の先住民ケチュアの人々が暮らす集落を出発し、インカ時代からこの地域の人々に聖峰とあがめられてきたネバドアウサンガテ山を遠くに望みながら、湿地帯や急傾斜の岩場を歩き続ける。

途中、アルパカや希少種である野生のビクーニャの群れにすれ違い、6時間。ようやく標高5670メートルのケルカヤ氷河の足元に到着すると、ダビド・メンドーザ(36)はその場に立ち尽くし、解けた氷河の水で出来た氷河湖を見渡した。そして、無言でひざまずくと、足元の砂を両手で掘り、そこにポケットから取り出したコカの葉と、二つのキャラメルキャンディーを置いた。続けてゆっくりと目を閉じ、アンデスの女神パチャママ(ケチュア語で「母なる大地」)に祈りを捧げた。

ダビドの目線の先には、氷壁から解けた水滴が、音を立てて氷河湖の水面に滴り落ちている。

「ケルカヤはこのふもとで暮らす私たちにとって、先祖伝来の暮らしを守るアプ(精霊)なのです」。祈りを終えたダビドはこう言うと、掘った砂を再び静かにかぶせ、その上に石を置いた。

アンデス山脈には、世界の熱帯氷河の90%以上が存在しており、その約70%を占めるペルーの氷河面積は、過去60年間の間に56%消失したといわれる。地球上で最大級の熱帯氷河のひとつである、ここケルカヤ氷河は特に速いスピードで消失しており、ペルー国立氷河山岳生態系研究所(INAIGEM)によると、1984年に65.7平方キロメートルあった氷河面積が、2023年には38.1平方キロメートルにまで縮小した。つまり、この39年の間にケルカヤ氷河の面積は42%も小さくなったことになる。

ケルカヤ山麓(さんろく)にあるコミュニティー、ピナヤで生まれ育ったダビドは、アメリカの著名な氷河学者ロニー・トンプソンが1970年代から遠征隊を結成し、定期的にここで陸地を覆う氷河の塊である「氷冠」の調査をしていることを子どもの頃から知っていた。8年前からはトンプソンのチームが来ると、ダビドは自身の馬を提供し、一緒に氷河の調査に出かけるようになった。

「2年前に彼と話をした時、この氷河はあと30年で消失する、と言われたんです。とても絶望的な気持ちになりました。氷河は気候の変化を敏感に体現しているんです」。かつては白い氷で覆われていたのに、今は茶色く乾ききった土の上を歩きながら、ダビドはこうつぶやいた。