「世界一住みやすい街」ウィーンが“低所得者には厳しい街”になりつつある

AI要約

ウィーンでは住宅価格が上昇し、かつての「賃貸人のユートピア」のイメージが揺らいでいる。

市によって安い家賃で提供される「公共住宅」が中所得者にも開放され、低所得者の競争が激化している。

ウィーンの住宅モデルは優れたが、入居条件の厳格化や待機リストの増加により、住みやすさが維持されるかが懸念される。

「世界一住みやすい街」ウィーンが“低所得者には厳しい街”になりつつある

世界的にインフレが進んで住宅価格や家賃が上昇するなか、かつて「賃貸人のユートピア」と呼ばれたウィーンにも変化が訪れている。安い家賃で借りられる人が限られ、低所得者が公共住宅に住めなくなっているという。

エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が発表したランキングで、文化や公共サービスの豊かさが評価され、オーストリアの首都ウィーンは3年連続で「世界でもっとも住みやすい都市」の称号を獲得した。なかでも、ウィーンは住居費の安定した安さが評価され、米「ニューヨーク・タイムズ」紙は、ウィーンを「賃貸人のユートピア」と称賛した。

英誌「エコノミスト」によると、ウィーンの人口約200万人のうち、約60%が市によって家賃が低く抑えられている「公共住宅」に住んでいる。この「公共住宅」は狭いアパートだが、幼稚園、ランドリー、プールなどの設備は充実していて、庭付きの80平方メートルの2ベッドルームで月900ユーロ(約15万円)ほどだ。

英「ガーディアン」紙によると、大学院生が借りた54平方メートルの2LDKの部屋の家賃は596ユーロ(約9万5300円)だ。駅や映画館へも歩いて行ける距離で立地条件も悪くない。

ウィーン市民のうち、収入の4分の1以上を住宅(エネルギー費を含む)に費やす人はわずか44%だが、ロンドンでは86%、パリでは67%に達する。欧州内でいかにウィーンの住居費が安く抑えられているかわかるだろう。また、賃借人は、生涯にわたりほぼ同じ家賃でアパートを借り続けることがでる。

この住宅モデルは、第一次世界大戦後に社会主義的な市議会が巨大な「カール・マルクス・ホーフ」などのプロレタリア要塞を建設し始めた「赤いウィーン」の遺産だ。ホームレスが急増する米国などからウィーンの住宅モデルは再び注目を集めている。

しかし、今、このウィーンで低所得者の住宅事情が悪化しているという。ウィーンの「公共住宅」に入るための所得制限は一人あたり税引後で5万7600ユーロ(約920万円)、2人の子供がいる夫婦では10万ユーロ以上(約1600万円)と高く、中所得者層も恩恵を受けられる。

市議会は誇らしげに「包括的な制度」だと謳うが、中所得者にも門戸が開かれた現状は、低所得者層にとっては厳しい競争に晒されているとも言える。

しかも、ウィーンでは人口が増えていて、入居には順番待ちが必要。入居にあたっては条件が課され、EU加盟国の市民であり、ウィーンで同じ住所に2年間登録されている必要がある。

また、申請者は定期的な収入を証明する必要がある。これらの基準は、多くの移民や新規入国者、定職のない人々を排除してしまう。こうしたことから、低所得者が「公共住宅」に住みにくくなっているのだ。

ウィーンの住宅モデルは万能とは言えなくなっている。今後も「世界一住みやすい街」を維持することはできるのだろうか。