民主党の結束揺るがすイスラエル政策 党大会では異論なく融和を演出

AI要約

米民主党全国大会では、ハリス副大統領を支持する熱気に満ちたが、中東外交政策に疑問の声が根強い。

デモ参加者はイスラエルへの武器提供や政策変更を求め、選挙への失望や不満が広がっている。

ハリス氏は多面的な配慮と融和を演出しつつ、イスラエルへの政策変更の兆しを見せていない。

 19日に始まった米民主党全国大会は、バイデン大統領(81)の後継候補となったハリス副大統領(59)を支持する熱気に満ちた。ただ、ハリス氏も一翼を担うバイデン政権の政策で、党内にも疑問の声が根強いのが中東外交だ。会場周辺では親パレスチナの抗議デモが起きていたが、党大会では異論は包み隠され、結束の演出が徹底された。

■「意味ある行動ない」「なぜ武器送る」

 デモに参加した建設業のジョン・ホプキンズさん(33)は、4年前に投票したバイデン氏への失望を隠さない。「(イスラエルの)ネタニヤフ首相を停戦せざるをえない状況に追い込むとか、巨額の兵器提供をやめるとか、できることはもっとあったのに。戦争に歯止めをかけるために、意味のある直接的な行動は何一つ起こさなかった」

 「結局のところ、どちらの党も私の考えを反映していない」とホプキンズさんは憤る。大統領選については「悪い選択肢しかないならマシな方を選ぶしかないが、考えるのも嫌になる」と話した。

 介護職員のキーナ・スパークルさん(39)も「物の値上がりで私たちは食べ物も家も買えないのに、なぜ武器をイスラエルに送るのか」と語った。11月の大統領選は投票しないという。

■ハリス氏、対応を変える兆し見せず

 ネタニヤフ政権への支持でまとまる共和党に比べ、民主党内ではイスラエル支援をめぐる考え方が割れている。革新派(左派)の議員や予備選で「支持なし」票を投じた代議員らの間で、武器の提供を制限してイスラエルに政策変更を迫るよう求める声がある。

 バイデン氏は19日の党大会での演説で「デモ参加者(の主張)には一理ある」と理解を示してみせた。ただ、親パレスチナの主張が一定の支持を集めているといっても、選挙の結果の決め手になるほど勢いがあるとは言い切れない。逆に、イスラエルとの関係の重要性をもっと強調すべきだという声も根強い。

 トランプ前大統領(78)との間で見込まれる接戦では、わずかな票の取りこぼしが致命傷となる。ハリス氏にとっては難しいバランスを取らなければならない状況だ。人道被害への懸念を強調する一方、イスラエルの存立と自衛権は強く支持しており、具体的に対応を変える兆しは見せていない。イスラエルへの武器禁輸も認めていない。

■多方面への配慮と融和を演出か

 民主党が19日に採択した政策綱領は「強く安全で民主的なイスラエルが米国の利益に不可欠」などとする一方で、一部が求める武器提供の制限などは盛り込まなかった。19日に登壇した急進左派のオカシオコルテス下院議員も、ハリス氏を「ガザの停戦を実現し、人質を帰還させるために精力的に活動している」と持ち上げた。かねてイスラエルへの批判を展開してきたが、その持論を封印し、結束を優先した。

 米紙ニューヨーク・タイムズによると、ハリス氏側近は党大会を前にアラブ系米国人や「支持なし」の代議員らと会合を重ね、懸念を聞き取った。党大会では著名なイスラム教徒であるミネソタ州のエリソン司法長官や、ハリス氏の夫でユダヤ教徒のダグ・エムホフ氏らの登壇が予定されており、多方面に対する配慮と融和の演出が図られる見通しだ。

 パレスチナを支持するアラブ系米国人が多いミシガン州の代議員で元教師のマイケル・マンソアさん(82)は「パレスチナ問題は重要さを増している」と指摘する。「ネタニヤフ首相は解任されるべきだし、米国は爆弾や武器の提供をやめるべきだ。ハリス氏がパレスチナに同情的なのは歓迎すべきことで、彼女なら難しい判断ができると期待している」と話した。(シカゴ=下司佳代子)