【中央時評】アーチェリー金メダルが韓国経済に与える示唆点

AI要約

パリオリンピックで韓国選手団が記録的な成績を残したことにより、競争と公正な報奨の重要性が再認識された。

競争と公正な報奨が経済成長に不可欠であり、そのバランスが重要であることが示唆された。

欧米の経済競争から見ると、競争を重視し技術革新を進める米国が優位に立っているという事実が浮かび上がった。

【中央時評】アーチェリー金メダルが韓国経済に与える示唆点

五輪旗が掲げられたエッフェル塔、ピアノの大屋根部分から滴り落ちるしずくに投影されたレモン色の照明、そして希少疾患で闘病中の世界的ディーバであるセリーヌ・ディオンが熱唱する『愛の賛歌(Hymne a L’amour)』…。ややカオスだった開幕式はこのように最後に白眉を飾って「さすが」という感歎詞を醸し出すのに充分だった。このように始まったパリオリンピック(五輪)に韓国選手団は44年ぶりに最小規模で参加したが、MZ世代の思い切りのよい進撃で当初期待した5個をはるかに越えて13個の金メダルを獲得した。

ある広告文句のように「金メダルがなんと5個」だ。今回の五輪でアーチェリーに与えられたすべての金メダルを独占した。このような金色神話の背後には専用訓練場や最先端シューティングマシンから代表チームの食事まで細やかにバックアップした現代(ヒョンデ)自動車グループの支援も重要だったが、何より絶え間ない競争と公正な選抜原則、すなわち公正な報奨体系が主な動力になったといえる。実際、男女それぞれ100人余りが参加して7カ月にわたる激しい競争を通じて選抜された6人の弓師のうち大部分が馴染みのない名前だった。

ここで注目したい点は「競争」とこれに伴う「公正」な報奨だ。2008年金融危機以降、新自由主義を批判する声が大きくなって「競争」の重要性を強調すると、まるで「無限競争」を主張するように意味が転倒して、この単語を使った瞬間「冷静な頭脳」だけがあり、「熱いハート」はない冷血漢と罵倒される世の中になった。「公正」はもっと複雑だ。「公正(justice)」と「公平(equality)」は異なる概念だ。マイケル・サンデルのような哲学者の観念論的アプローチとは独立的に経済学では能力と努力に比例して報奨を受けることが公正で、すべての参加者に同じ報奨を与えることが公平だ。競争の結果は事実、能力や努力だけでなく運や私たちがよく「××チャンス」と呼ぶ外部の影響力など、そのほかさまざまな要素によって決まる。結局、公正は観察可能な競争の結果からこのようなその他の要素を排除して直接的観察が不可能な能力および努力だけを抽出して報奨を与えることだ。問題は報奨がどのように与えられるのかによって努力する程度も、逆に影響を受けることになる。すなわち、報奨は努力の函数だが、努力もやはり報奨の函数になるだけに、数学的に互いに「絡み合う状態」にある。この絡み合いを解いて公正な報奨をどのように決めるかという問題はミクロ経済学で最も重要に扱う分野の一つだ。

アーチェリーに劣らず経済も成長するには競争およびこれに伴う公正な報奨が核心となる。公平を無視しようというわけではない。競争に遅れた人々の場合、彼らが再起できる足掛かりを用意して、当初競争に参加できない弱者には人間の生活を営めるように環境を構築することも競争と公正に劣らず重要だ。ただし、政治家の立場ではどうしても「熱いハート」が「冷静な頭脳」よりも票集めに役立つため、「競争」という用語は韓国社会で忌避の対象となった。しかし競争は成長の動力であることから、これを人為的に抑制する場合、そのような経済は淘汰される。

一つの例が米国と欧州経済の差だ。金融危機以前の2007年をとってみても、1人当たりのGDP(国内総生産)は米国(4.8万ドル)、ドイツ(4.1万)、フランス(4.1万)、英国(5万)とほぼ横並びだった。ところが昨年を基準として米国(8.2万)、ドイツ(5.3万)、フランス(4.4万)、英国(4.9万)で、ドル高を考慮しても米国と欧州の国家間の格差が非常に大きく広がった。

なぜだろうか。要因は複数あるが、金融危機以降に本格化した第4次産業革命により国家間の「真の実力」があらわれる競争の場が繰り広げられたためだ。第4次産業革命の状況では基本的に技術や科学が優位にある国家が優勢を占めるほかはないが、技術革新も競争の産物だ。これに伴い、競争をより重視する米国経済が欧州の経済を圧倒することになったのだ。欧州国家は社会主義色彩が強いことから産業および労働市場に強力な規制が導入されている。規制は競争で活用できる範囲を制約する。

また、一つ注目すべき点は米国は大学および各種官民研究所に莫大な投資をするが、互いに激しい競争を通じて投資を配分する。反面、フランスやドイツでこれといった大学をいざ話してみようとすると、一瞬では思い浮かばない。英国おオックスブリッジ(オックスフォード+ケンブリッジ)の地位は過去とは違うようだ。米国の場合、特に研究中心の大学院過程と研究所に支援を集中して世界から最も優秀な人材を引き込んだ後、このうち競争に生き残った人材だけに米国に滞在できる扉を開けている。反面、韓国社会はいつからか競争を異常なほどダブー視するようになった。逆説的にも韓国経済で唯一競争が激しいところは規制導入部門だ。規制の百科事典と呼ばれるほど、世界に存在する規制という規制はすべて導入して細かい網で競争を人為的に制約している。アーチェリーの金メダルが韓国経済に投じる示唆点だ。

アン・ドンヒョン/ソウル大経済学部教授