外信コラム 遠のく「核なき世界」 中露朝が高める核の脅威に戦力均衡を余儀なくされる米国

AI要約

広島市で大学生活を送り、8月6日の平和記念式典に参加する習慣が生まれた。

核兵器の問題が再び注目され、ロシアや中国、北朝鮮の核戦力の動きが懸念されている。

日米首脳の核廃絶理想が遠のき、核なき世界の実現がさらに困難となっている。

外信コラム 遠のく「核なき世界」 中露朝が高める核の脅威に戦力均衡を余儀なくされる米国

大学生活の4年間を広島市で過ごした。毎年、夏休みが始まった後も下宿に残り、核兵器にまつわるシンポジウムなどで専門家の話を聞き、8月6日の平和記念式典を見学してから帰省するのが習慣となった。

1999年の式典で当時の秋葉忠利市長は、原爆の惨苦を乗り越え、核廃絶を訴える被爆者をたたえた。日暮れ時、参列者が原爆ドーム前の元安川に浮かべた灯籠が、満ち潮で流れず、水面を漂う様子は、犠牲者の魂が遺族との別れを惜しむかのように思われた。

四半世紀がたち、ストックホルム国際平和研究所の報告によれば、地政学的関係の悪化を背景に、核兵器の役割は増した。ロシアは5月、侵攻するウクライナとの国境近くで戦術核の演習を行った。中国はどの国よりも核戦力を増強している。北朝鮮は複数の核弾頭を射出できる弾道ミサイルの開発を進めている。

米国家安全保障会議で軍縮・不拡散を担当するバディ上級部長は6月、中露朝とイランが協力して米国や同盟国への脅威を高めているとし、「数年以内に戦略核の配備拡大を余儀なくされる局面が来るかもしれない」と講演。核戦力の均衡を図る姿勢をみせた。

戦後80年まで1年。「核なき世界」を掲げた日米の首脳は退陣を表明し、核廃絶の理想はさらに遠のいたと感じる。(平田雄介「アイ・ラブ・ニューヨーク」)