佐渡島の金山・世界遺産登録で韓国に対し日本が行った「ギリギリの対応」とは 澤田克己

AI要約

7月下旬にインドで開かれた世界遺産委員会で、「佐渡島(さど)の金山」の世界文化遺産への登録が決まった。申請内容が拡大され、朝鮮人労働者に関する展示スペースが新たに設けられた。展示では朝鮮人労働者が危険な作業に従事し、過酷な状況に置かれていたことが紹介された。

 日本政府は「強制労働」という表現を避けてきたが、徴用工の実態は強制に近いものであった。韓国政府は展示内容を一定程度受け入れたが、強制労働の問題から目を逸らすことに疑問を抱く声も出ている。

 登録を巡る対立や展示内容の変化から、歴史認識の違いや国際社会での立場の影響が浮き彫りになっている。今後も両国間での対立が続く可能性がある。

佐渡島の金山・世界遺産登録で韓国に対し日本が行った「ギリギリの対応」とは 澤田克己

 7月下旬にインドで開かれた世界遺産委員会で、「佐渡島(さど)の金山」の世界文化遺産への登録が決まった。当初の申請内容は江戸時代に限定したものだったが、韓国の反発を受け、朝鮮半島出身の徴用工を含む「全体の歴史」の展示を事前に準備することで登録にこぎ着けた。その展示内容とともに、対立の原点とも言える2015年に世界文化遺産に登録された「明治日本の産業文化遺産」を紹介する産業遺産情報センター(東京)の展示の変化について紹介したい。

◇「強制労働」の言葉は入らず

 今回は、佐渡鉱山の歴史や技術を紹介する相川郷土博物館に朝鮮人労働者に関する展示スペースが新たに設けられた。そこでは、▽危険な坑内作業に従事した人数は朝鮮人の方が日本人より多かった、▽朝鮮半島からの動員には「募集」形態とされた当初から朝鮮総督府が関与していた、▽逃げて捕まった朝鮮人徴用工が刑務所に入れられたことをうかがえる記録もある――ことなどが紹介されている。

 当初の申請は江戸期に限定するものだったため、韓国政府は「朝鮮人強制労働の歴史を隠そうとしている」と反発してきた。事前に審査した専門家の諮問機関も韓国の反発を念頭に「全体の歴史」を展示するよう求め、日本側がこれに応じた。ただ日本政府はこれまでも「強制労働」という用語の使用は拒んできており、今回も使われなかった。

 ただ「徴用」というのはそもそも、国家が人々を強制的に働かせるものだ。日本が「強制労働に当たらない」と主張するのは、戦争などの「緊急の場合」は強制労働条約の対象外とされているからにすぎない。働かされた側にとっては同じことである。国際労働機関(ILO)の専門家委員会が2003年、日本による戦時中の中韓などからの強制的な動員について強制労働条約違反だという判断を示してもいる。専門家委員会の判断は法的拘束力を持たないものの、一定の権威を有するものだ。

 韓国政府は今回、実質的に強制だったことを読み取れる展示がされたとして受け入れた。日本からこれ以上を引き出すのは難しいという現実的判断の下、登録前に実際の展示を確認した結果だった。だが野党やメディアからは、「強制労働」という言葉が入らなかったことに強い不満が出ている。韓国政府関係者は「世論の関心が高いとは言えないように感じるが、政権攻撃の材料として使われるのは避けられないだろう」とため息をついた。