中国北京・伝統の継承と革新的な手法で生き残る前門の「老舗」

AI要約

北京の中軸線が世界遺産に登録され、夏の観光シーズンには南の地区にある商業街「前門歩行者天国」が賑やかになる。

前門の商業街は古くから賑わい、老舗店が多く残っている。特に、布靴の老舗「内連昇」は観光客に人気である。

伝統的な布靴の製作技法や革新的なデザイン、中国文化要素を取り入れた新製品が注目を集めている。

中国北京・伝統の継承と革新的な手法で生き残る前門の「老舗」

【CNS】先日「北京の中軸線」が世界遺産に登録され、中国の世界遺産は合計59件になった。夏の観光シーズンには、中軸線の南の地区にある商業街「前門(Qianmen)歩行者天国」は、夏の観光シーズンにはいっそう賑やかになる。

 北の正陽門(Zhengyangmen)から南の天橋(Tianqiao)まで続くこの商業街は、天安門広場を挟んで故宮(紫禁城、Forbidden City)のちょうど向かい側の位置にあり、古い市街地の保護区としては北京最大で、天安門広場(Tiananmen Square)周辺で唯一の計画された商業エリアでもある。

 中軸線の景観スポットを訪れる観光客の多くは、ここを食事やショッピングの目的地としている。

 明・清時代の昔から、前門大通りとその両側のエリアは、すでに賑やかな商業街をなしていた。何世紀も続いた老舗商店が建ち並んだ賑やかな商業地区で、現在でもまだ数十軒の老舗が残っている。これらは北京の長い商人文化の歴史を象徴し、その歴史の継承と革新な取り組みを通じて、「北京風の味わい」を色濃く残している。

 前門の大柵欄(Dazhalan)商業街にある、中国伝統の布靴を商う100年以上の歴史を持つ店「内連昇(Neiliansheng)」は、1階で靴を販売し、2階は感染症のまん延時期に「大内宮保コーヒー店」に改装された。低温抽出の「北京コールドブリュー」や「砂糖漬けサンザシ・カフェラテ」「北平生絞り炭酸オレンジ」などのユニークな飲み物と大柵欄の街並みを見下ろせるテラスで、観光客やSNSユーザーの人気の店となっている。

 また3階は、普通の民間の展示館だったものが、昨年北京市認定の「布靴文化博物館」に格上げされ、官人や貴族が宮殿で履く「朝靴(Chaoxie)」から庶民向けの流行の「潮靴(Chaoxie)」まで、老舗「内連昇」の170年以上の歴史的な靴のコレクションが展示され、すでに1万人を超す来場者が訪れている。

「内連昇」の布靴の値段は安いとは言えない。一足500~800元(約1万180円~1万6288円)くらいはする。最も精緻なところは靴底で、全て手作業で作られる。靴職人は小麦の強力粉を練った糊で綿布を一枚一枚貼り合わせ、紳士靴は35層、婦人靴は31層にもなる。

 靴底を甲の部分と縫い合わせることを「納底(Nadi)」と言うが、通常の 一方向に縫う「一字納底」では1平方寸(約11平方センチ)で81針、合計で約2100針となる。これに対して、革新的な「十字納底」は、十字のように二方向に縫う技法ゆえ、縫う密度が高くなり、靴作りの平均所要時間は2~3日から1週間ほどとなる。

「内連昇」の「千層底布靴」の製作技法は、2008年に「中国国家級無形文化遺産」に登録された。

「内連昇」で最も売れているのは、今でも依然として伝統的な布靴だが、布靴はもはや老人専用の「散歩靴」ではなく、若者の「流行靴」にもなっている。

 老舗「内連昇」と文字設計や漢字情報技術の専門企業「漢儀字庫(HANYI FONTS)」がコラボして、漢字を鳥のようなデザインで書いたり、虫が這いずるような形状で書く古代中国からの伝統書体「鳥虫篆(Niaochongzhuan)」を布靴にあしらった製品を売り出した。

 また、大ヒットテレビドラマ『如懿伝(邦題:如懿伝 ~紫禁城に散る宿命の王妃~)』、アニメ映画『大魚海棠(邦題:紅き大魚の伝説)』をブランド化した布靴シリーズは、その新鮮な色彩と精緻な刺繍、バリエーションの豊富さで、瞬く間に人気を集めるなど、この店は流行を捉えるのにも積極的だ。

 紳士靴では、古代中国で亀の甲羅に刻まれた文字「甲骨文」、北京の伝統玩具「兎児爺(Tuerye、頭がウサギで体が人の泥人形)」、伝説の神獣「麒麟(Qilin、キリン)」など中国の伝統文化の要素を取り入れた布靴が、若者や中年男性にも歓迎されている。

 また、辰年に発売された「魚躍竜門(Yuyue Longmen)」シリーズは、光沢あるサテンの布に全面刺繍をほどこした布靴で、一躍ベストセラーになったという。

「内連昇」は前門の老舗ブランドの典型だ。このほかに、漢方薬の「同仁堂(Tongrentang)」、伝統調味料「醤」の老舗「六必居(Liubiju)」、チャイナドレスの仕立ての名店「瑞蚨祥(Ruifuxiang)」、シューマイで有名な清朝時代から続く老舗食堂「都一処(Duyichu)」、大規模写真館の草分け「大北照相館(Dabei Photo Studio)」など。100年以上の歴史を持つこれら老舗は、北京の中軸線に沿って、民俗文化や人びとの色彩豊かな生活を記録してきた。

 時代の変化の中で、彼らは心を込めて「原点の味」ともいうべき独自の伝統を守り続けている。また同時に、時代の変化に応じて革新を果たし、新たな中国的な潮流をリードする店にもなっている。

 北京ダックの有名店「全聚徳(Quanjude)」の前門店は、それらの原点となる老舗で、清朝時代の正面玄関の店名を掲げた看板が復元され、ダックを吊るしてあぶる百年来のかまどの火種とともに北京市の保護文化遺産として展示されている。

 この「全聚徳」が近年、前門大通りで「中軸線美食ギフト」の体験ショップを立ち上げた。中軸線の均整の取れたシンメトリーと様々な美しさの調和をアピールするような品揃えで、北京ダックや中軸線の要素をイメージした北京風の焼き菓子などを提供し、またお持ち帰りの土産品を買うことができる。ここでは、多くの客が食事をしたり、中国式アフタヌーンティーをゆったり楽しんだりしている。

 清朝時代から続く茶舗(ちゃほ)「張一元(Zhangyiyuan)」は、古い素朴な「茶庄(Chazhuang)」(茶葉を販売し、店内で茶を味わえる店)の様式を残している。夏の日、店員たちは客のために手際よく茶葉を量り、包装し、店内はジャスミン茶の爽やかな香りに包まれている。「張一元」のジャスミン茶の熟成技術は国の無形文化遺産保護プロジェクトの1つに指定されている。ジャスミン茶は常にこの店の主役である。

 もう一軒の有名な老舗茶庄「呉裕泰(Wuyutai)」では、茶をアイスクリームに練り込んでいる。「呉裕泰」前門店の「ティーバー」の前には、若者たちが大行列を作り、現場製造の「茶風味アイスクリーム」を買い、写真をSNSにアップロードしている姿が見られる。

 前門店の店長は「お茶ビスケット、お茶アイス、お茶ガムを食べた若者たちは、お茶を使った食べ物にはこんなにたくさんの種類があることを知り、お茶に接するようになり、お茶が好きになり、お茶の忠実な消費者になっています」と話す。

 近年、前門大柵欄商業街に「中国式ライフスタイル体験区」として「北京坊(Beijingfang)」が誕生した。東洋と西洋が融合し、現代感覚あふれた「北京坊」と前門に残る多くの老舗が互いに補い合うことで、この場所は若者の「人気の集合スポット」になっているだけでなく、北京の中軸線に位置する新しい「文化的ランドマーク」にもなっている。(c)CNS/JCM/AFPBB News

※この記事は、CNS(China News Service)のニュースをJCMが日本語訳したものです。CNSは1952年に設立された中華人民共和国の国営通信社です。