家計のストレスで「心身を病む」人が急増...最新調査で見えた「やりくり疲れ」のアメリカ社会

AI要約

カリフォルニア州からテキサス州に移住したリトルトン夫妻が経済的苦境に直面し、経済的ストレスが心身の健康に悪影響を及ぼす。

アメリカ人の経済的不安が高まっており、物価の上昇や貯蓄不足が主な要因であることが調査から明らかになっている。

経済的問題に対処するためには家計の管理やこまめなチェックが必要であり、孤独を感じずにパートナーや家族と話し合うことも大切だ。

家計のストレスで「心身を病む」人が急増...最新調査で見えた「やりくり疲れ」のアメリカ社会

こんな暮らしをしているはずではなかった、というのがリトルトン夫妻の偽らざる思いだ。

10年前、夫妻はよりよい仕事を求めて故郷カリフォルニア州からテキサス州に移り住んだ。夫のポール(49)は現在、建設会社で見積もりを担当し、プロジェクトマネジャーを務める。妻ステファニー(48)は信託管理関係の仕事をしている。

ポールもステファニーも年齢とともに収入は上がった。だが子供の学資ローンの返済もあり、ここ数年の物価高騰のあおりを受けて今はぎりぎりの生活だ。

50代を目の前にして経済的な状況は20代の新婚当時からちっとも進歩していないと、2人は言う。「生活費が上がったことだけが唯一の違いなのだから、嫌になる」と、ステファニーは嘆く。

「私たちは長女が学資ローンを返すのを助けていて、末娘は家賃の払える住居が見つからずに恋人とわが家に居候中。家計のストレスは私たちの心の健康と家族関係に、破壊的な悪影響を及ぼした」

この手のストレスを経験しているのはリトルトン夫妻だけではない。金融情報サイトのマーケットウォッチから本誌が独占入手した最近の調査結果によれば、経済的不安は大勢のアメリカ人の心の健康をむしばんでいる。

2022年6月のピーク時に比べ、インフレは格段に落ち着いた。

しかしマーケットウォッチの調査では、回答者の半数近く(47%)が2024年ほど経済的ストレスを強く感じる年はないと答えた。経済的ストレスをある程度感じるとした回答者は88%、家計のやりくりが最大のストレスだと答えた人は65%に上った。

また生活苦で心の健康が「破壊された」とおよそ41%が答え、「やりくり疲れ」を感じている人は全体の約3分の2に当たる64%だった。

経済的ストレスの影響が表面化するのはメンタルヘルスだけではない。調査では睡眠不足(56%)、肉体疲労(47%)、頭痛(45%)、体重の増減(38%)、食欲の変化(34%)、消化不良(33%)といった症状が報告された。

「物価高による『生活費危機』が全米で家計を圧迫し続けるなか、生活の苦しい人々の多くが今後ますますやりくりに苦労するだろう」と価格調査サイト、マネーエキスパートのディレクター、リズ・ハンターは予想する。

「低所得者層には借金や経済的不安への対処に慣れている人もいるが、今回の生活費危機で生まれて初めて金の苦労を知った人も少なくない」

リトルトン夫妻も後者だ。生活費の高騰を受け、ステファニーは「収入の上昇に合わせて今まで享受してきた食事のデリバリーやスポーツジム通い、家事代行サービスといった贅沢」をやめた。

定期的な運動は心身の健康に有効だから、「ハイキングコースや自転車用のトレイルが近くにあってうちはラッキー」だと彼女は言う。

そもそも、具体的に何が人々を苦しめているのだろう。

マーケットウォッチがストレスの原因を尋ねたところ、57%が生活必需品の価格の上昇、47%が貯蓄不足、46%が収入の不足を挙げた。また39%が負債を、同じく39%がアメリカ経済の動向をストレス要因とした。住居費の高さと答えた人は36%、高金利とした人は33%だった。

金の苦労や不安に対処するのに疲れ果て、家計の管理を投げ出す人も多い。マーケットウォッチの調査では、深刻な事態に陥るまで経済的な問題は見て見ぬふりをすると答えた人が、44%もいた。だが問題を無視したり放置したりすれば、状況はさらに悪化しかねない。

ストレスのせいで「悪癖」に陥った人もかなりの割合に上った。

家計を細かく管理していないと答えた回答者は58%。57%が家計関連の重要な決断を下すのを先延ばしにし、44%がストレス解消のために浪費し、同じく44%は身の丈に合わない商品を購入していた。41%が請求書を開封せず、クレジットカードの利用明細を確認していなかった。

せめて銀行口座の取引明細は確認してほしいと、マネーエキスパートのハンターは勧める。

「当たり前だと言われるかもしれないが、口座の明細を定期的にチェックすれば出ていく金と入ってくる金の額が正確に分かる。その時点で使える金がいくらなのかも把握できる」と、彼女は言う。

「問題に速やかに対処できるというメリットもある。不正な引き落としがあればピンとくるし、普通口座の残高が少ないことに気付けば、残高を超えた額を融資する当座貸越の利用(とその手数料)も防げる」

金絡みの苦境において、アメリカ人は孤独を感じがちだ。経済的ストレスはパートナーや家族に打ち明けないとした人は58%に上った。

アメリカはコロナ禍に続き、生活費危機に見舞われた。引き金となったのは急激なインフレだ。22年6月には物価上昇率がFRB(米連邦準備理事会)が目標とする2%を大幅に上回り、9.1%でピークに達した。

以降物価の上昇は鈍化しており、今年5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で3.3%の上昇となり、前月からほぼ変わらなかった。

4月に2.8%上昇したガソリン価格は、5月には3.6%下がった。インフレ率は低下し、下落傾向が続いているように見えるが、FRBの政策金利と住宅ローン金利は高止まり。住宅コストは上がり続けている。

最新データによると、5月の住居費は0.4%上昇。住宅所有者や住宅購入希望者を苦しめている。食料品価格も0.1%と小幅に上昇した。