有権者の怒り爆発 「庶民圧迫」と政権批判 大統領の中道連合敗北・仏総選挙〔深層探訪〕

AI要約

マクロン大統領を支える中道連合が議席を減らし、左派連合と極右野党が成長。有権者の怒りが爆発したフランス下院総選挙。

若き成功者としてスタートしたマクロン氏に対する期待が失望に転じ、民衆の不満が高まる。

マクロン氏の政策に対する批判や不信、政権運営の方針に対する反発が広がる中、選挙での戦術が物議を醸し出す。

有権者の怒り爆発 「庶民圧迫」と政権批判 大統領の中道連合敗北・仏総選挙〔深層探訪〕

 7日に行われたフランス国民議会(下院)総選挙の決選投票で、マクロン大統領を支える中道連合は議席を大幅に減らし、政権批判を展開した左派連合と極右野党・国民連合(RN)が党勢を拡大した。「金持ち優遇・庶民圧迫」との非難が絶えないマクロン氏に対し、有権者の怒りが爆発した格好だ。

 ◇期待から失望へ

 マクロン氏は2017年の大統領選に仏史上最年少の39歳で当選した。直後の総選挙では自ら結成した新党が約6割の議席を獲得。「若き成功者」を頂点とする政権の船出は順風満帆だった。

 しかし、高い支持率は長続きしなかった。「フランスを全ての人のチャンスに」というモットーとは裏腹に、企業が労働者を解雇しやすくする法改正や、失業保険受給資格の厳格化などに次々と着手。かつて社会党政権の閣僚を務めたマクロン氏に労働者らが寄せた期待が失望に変わるのに、時間はかからなかった。

 ◇民主主義か独裁か

 18年からは燃料税引き上げに抗議する「黄色いベスト運動」で国内が混乱。2期目に下院の過半数を失うと、23年には憲法の例外規定を行使し、下院の投票なしで年金改革法案を強行採択した。改革は定年の2年延長につながるため、国民にすこぶる不人気で、今も反対論が根強い。

 荒っぽい手法は難しい政権運営ゆえの決断だったが、有権者の不信は深まった。総選挙でパリ郊外の投票所を訪れた銀行員の女性(34)は「自分の考えることが正しく、皆に反対されても押し通す」とマクロン氏を痛烈に批判。「もう民主主義じゃない。ほとんど独裁者だ」とぶちまけた。

 ◇任期満了前に限界? 

 総選挙中の言動が、支持者の離反に拍車を掛けた面もある。マクロン氏は6月9日、欧州連合(EU)欧州議会選での与党敗北を受けて「将来を選択してもらう」と下院を解散。「国民は最も公正な選択ができる」と、有権者への信頼を強調した。

 ところが、同月30日の第1回投票でRNの躍進が現実味を帯びると、思惑の外れたマクロン氏は「極右阻止」を主張。200超の選挙区で左派と候補を一本化し、なりふり構わずRNの当選者を減らす戦術に出た。政権選択への介入と受け取られても仕方なく、ある世論調査では「国民の意思表示を妨げる政治屋の策謀だ」という厳しい意見が56%に上った。

 仏政治学者ドミニク・レニエ氏は「RNは非合法の政党ではない。有権者には一票を投じる権利がある」と指摘。孤立の道を歩むマクロン氏が27年の任期満了を前に「限界に達した」という見方を示した。(パリ時事)