トランプの帰還と韓国【寄稿】

AI要約

トランプが米大統領選挙の結果を待たずに再選に向けて動き始め、世界は彼の帰還の可能性で揺れる。

トランプ政権の特徴や外交方針の変化により、国際社会は大きな変化に備え始める。

韓国も核武装の機会を求める声が上がる中、外交政策の柔軟性や均衡感覚が重要になっている。

 トランプが戻ってくる。まだ米大統領選の結果を予測するには早いが、政治的な二極化の現実のもとでは、共和党支持層の結集は民主党より強いとみられる。世界はトランプの帰還の可能性で慌ただしくなった。多くの国がトランプ側と接触しようと並びつつ、変化に対応しようとする予防外交を始めた。どのように対応するのだろうか。

 トランプ現象は原因ではなく結果だ。フランスを含む欧州政治が反移民の逆風で苦戦しているように、グローバル化の逆風が米国政治を揺るがしている。トランプ陣営は1期目の経験をもとに政権運営計画を明らかにしたが、そのなかには、路上生活者のキャンプの運営、未登録移民の大規模追放、公務員の迅速な解雇など、過激な案が含まれている。内戦のような対決の政治がよりいっそう激しくなるだろう。

 トランプの米国第一主義は、外交面では介入の縮小と費用の転嫁が核だ。1945年2月のヤルタ体制は完全に終わった。ヤルタ体制は短い間ながら戦争後の希望を代弁した。ルーズベルト大統領が望んだ持続可能な平和の時代は実現しなかったが、それでも、国際社会にとっては放棄できない名分だった。いまやヤルタ体制が生んだ大国の協力を通じた紛争管理の時代は終わった。米国が抜けて生じた空白は、戦後体制に抑えられていた「歴史の復讐」を引き起こすだろう。気候変動に対する共同対応も困難になった。国際機構の役割も減り、機能が麻痺した国連安全保障理事会も復活することはないだろう。旧秩序の崩壊はすでに始まってはいるが、トランプの帰還がその崩壊の速度をさらに上げるだろう。経済に及ぼす影響を考慮しない国内政治的な保護貿易は、世界的な景気停滞を引き起こすだろう。トランプ陣営は、すべての中国製の製品に60%以上、欧州に対しても10%の関税を課すと予告した。地政学的な不安定と保護貿易は供給の不安と物価上昇につながり、対外依存度が高い韓国経済に不利に作用するだろう。

 トランプは外交にはコストでアプローチする。米国の税金を他国の安全保障のためには使わないということであり、各国が自分で安全保障の費用を負担せよということだ。伝統的な同盟の論理は通じない。口ではそう言っても実質的には同盟を否定できないだろうという漠然とした期待は捨てたほうがいい。ワシントンの安全保障の専門家らの意見ではなく、共和党の主な支持層の平均的な認識に注目する必要がある。トランプは1期目とは違い、自分の支持層を明確に代弁するということだ。

 トランプの朝鮮半島政策はどうなるのだろうか。一部では基盤が揺れる混乱が機会になりうると期待しているが、根拠はない。ましてや尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権ではないか。機会を探る能力も解決策を設ける意志もないのに、混沌はそれ自体が災難だ。戦時作戦統制権を握っている米国の状況管理能力を期待するのは難しいという点も心配だ。かつてのクリントン政権期の通米封南、すなわち、北朝鮮が韓国を排除して米国と直接交渉する可能性を期待する意見もあるが、そのようなことは起きないだろう。2019年2月のハノイ会談決裂後、朝ロ関係をはじめとする北方の秩序が変わった。2期目のトランプ政権に、複雑な北朝鮮核問題を解決する意志と調整能力があるのかも疑問だ。トランプ陣営は国際社会への介入の縮小にもかかわらず、対中国政策については攻撃的だ。米中対決の激化は朝鮮半島において、外交、協力ではなく軍事対決を呼び起こす可能性が高い。

 トランプがもたらす混沌が韓国の核武装の機会になるだろうという展望も根拠がない。世界的な次元で核兵器非拡散体制は、旧秩序の崩壊過程においても最後まで大国の共同利害として残るだろう。おそらくトランプ2期目は、米国の核の傘、すなわち戦略資産の朝鮮半島展開に対して費用を要求するだろう。大幅な防衛費分担金の引き上げを要求する米国と、これに反対する国内世論の間で、韓国政府は困難に直面するだろう。非核化は遠ざかり、核武装は不可能だ。それが交渉の失敗がもたらした悲観的現実だ。

 競争にルールがなく、利益追求に規範がない混沌の時代だ。霧が濃いほど方向ではなく均衡が重要となる。均衡とは中間の位置ではなく、偏らない動きのことだ。慎重かつ柔軟にならなければならない。ベトナムの「竹外交」のようにだ。竹は強い根、丈夫な幹、しなやか枝が特徴だ。韓国外交は国益という根元が弱い。いったい誰のための外交なのか。いまはかつての慣れた方向性ではなく、混沌の時代をかき分けて進む柔軟な均衡を準備する時代だ。

キム・ヨンチョル|元統一部長官・仁済大学教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )