【イラン大統領選】「中東の大国」の気になる核開発の行方と軍事力、対立する欧米と全面戦争が勃発したらどうなる?

AI要約

2024年5月20日、イランのライシ大統領がヘリコプター墜落で死去し、次期大統領選挙が行われることになった。

大統領選の候補者には保守強硬派が多く、改革・穏健派のペゼシュキアン氏以外は護憲評議会により外された。

イランの次期大統領候補はハメネイ師の意向に従う必要があり、核合意問題も新政権の対応に影響を与える可能性がある。

■ 有力視される次期大統領候補、現実はハメネイ師の「胸三寸」? 

 2024年5月20日、イランのライシ大統領が、搭乗するヘリコプターの墜落で死去した。このため次期大統領を決める選挙が6月28日に行われる。

 故・ライシ氏は政権内主流の保守強硬派(イスラム教に厳格で反欧米)のリーダーで、今年4月に起こったイスラエルへの弾道ミサイル・ドローン報復攻撃も主導した。

 事故原因は「天候急変による視界不良でヘリが山に激突」と推測されているが真相は不明で、報復攻撃直後の絶妙なタイミングから、「イスラエルのスパイ組織モサド(諜報特務庁)の仕業ではないか」との噂も飛び交っている。ライシ氏はイランの実権を握る最高指導者ハメネイ師の信望も厚く、後継者と目されていただけに、同国にとってはかなりのダメージだろう。

 大統領選の候補者は以下の6名だが、出馬にはハメネイ師の意向を受けた護憲評議会の事前認可が必須で、改革・穏健派で許されたのはペゼシュキアン氏のみ。他の有力候補は軒並み外された。

 ・ガリバフ氏(国会議長、保守強硬派)

・ジャリリ氏(元最高安全保障委員会事務局長、保守強硬派)

・ガザニ氏(テヘラン市長、保守強硬派)

・ガジザデハシェミ氏(戦争遺族支援関連団体のトップ、保守強硬派)

・プルモハンマディ氏(元法相、保守派)

・ペゼシュキアン氏(元保険相、改革派)

 中東情勢に詳しい国際ジャーナリストは、「国民の中に改革・穏健派支持層が相当数いて、同派の候補を1人は立たせないと投票率が下がり政権のメンツもつぶれる。同派支持者らの不満を減らす“ガス抜き”的意味もあるようだ」と推測。さらに「実質、ガリバフ氏とジャリリ氏との一騎打ちと伝える欧米メディアが多いが、結局はハメネイ師の胸三寸で予断を許さない」と語る。

■ 水面下で米国に「核合意復活」の働きかけをしていた可能性も

 ガリバフ氏は保守強硬派の総本山、イラン革命防衛隊の出身だ。一方ジャリリ氏は、米英仏ロ中独・EU(欧州連合)とイランとの間で交わされた「イラン核合意(包括的共同作業計画。JCPOA)」(2018年にアメリカは離脱)において交渉役を務めた経験があり、欧米との間に一定のパイプを維持する。

 前出の国際ジャーナリストは、「候補者の顔ぶれを見れば、ハメネイ師の推進する保守強硬路線に変更がないのは明らか」と強調したうえでこんな分析をする。

 「賛否両論あるが、少なくとも軌道に乗りつつあった核合意を台無しにして離脱をゴリ押ししたのはトランプ前米大統領だ。そして次期米大統領選でトランプ氏の返り咲き、いわゆる『もしトラ』が現実味を帯び始めたため、イラン新政権の対米戦略は、米次期大統領が就任する2025年初めまで、ひとまず様子見といったところではないか」

 ライシ氏は生前、表向きは欧米に強硬姿勢で臨んだが、水面下ではアメリカとの融和策を探っていたとも言われる。

 懸案の核合意の内容は、ウランの濃縮度合いを原水爆が起爆する純度90%以上よりもはるかに低い4%弱に薄め、同時に濃縮に使う遠心分離機の大半も破棄し、これと引き換えに欧米はイランへの制裁を徐々に解除するというものだった。

 だが2017年にトランプ氏が米大統領になると“ちゃぶ台返し”で核合意から離脱。その後ホワイトハウスの主はバイデン氏に代わったことで、ライシ氏はアメリカが早期に核合意に復帰することを願っていたとも聞く。

 一部の欧米メディアは、イランが今年4月下旬にEUを仲介役にして、60%の純度まで高めたウランを20%まで薄める代わりに、経済制裁を限定的に解除してほしいとの条件を米側に打診していたと報じている。

 「今年4月下旬」という時期は非常に興味深く、イランはこの直前の4月13日~14日にアメリカが強力に支援するイスラエルに報復攻撃を行っている。

 「後から考えれば、報復攻撃に際してイランがイスラエルやアメリカに事前に通報したり、あえて重要拠点を外したり、迎撃されやすいように弾道ミサイルよりもドローンを多用したりするなど、異様なほど気を遣っていた。こうした行為は水面下で核合意復活の駆け引きをしていたとすれば、納得がいく」(中東情勢に詳しい軍事専門家)