「インドの民主主義は死んでいない」モディとBJP一強時代の終わり、圧倒的なリーダーの存在がアキレス腱に

AI要約

インド総選挙でBJPが勝利し、モディ首相が3期目を迎える見通し。連立政権が必要となったことで長期一党支配が終わり、連立時代が戻ってくる。

BJPの成功の要因はモディのカリスマ性、福祉政策や組織力など。しかしその一強時代がピークを越え、下降が不可避となった。

長期にわたる一党支配の転落例は他にもあり、経済や社会の変化が主な要因。インドでも新興層の台頭や経済構造の変化が影響を及ぼしている。

「インドの民主主義は死んでいない」モディとBJP一強時代の終わり、圧倒的なリーダーの存在がアキレス腱に

4月から1カ月半がかりで実施されてきたインド総選挙で、インド人民党(BJP)が勝利を収め、ナレンドラ・モディ首相が3期目を務めることがほぼ確実になった。現代インドの首相としては2人目の長期政権だ。【デベシュ・カプール(ジョンズ・ホプキンズ大学教授)】

とはいえ、BJPはかなりの議席を失い、単独過半数は確保できなかった。このためモディは初めて連立を組み、連立相手に配慮した政権運営を迫られることになる。

それはインド議会で10年に及んだBJP一強時代が終わっただけでなく、BJPの勢いがピークを越えたことを意味する。1980年代後半以降のインド政治の特徴だった連立政権が戻ってくるのだ。

BJPが10年にわたりインド政治を牛耳ることができた理由はいくつかある。まず、モディというまれに見るカリスマ的なリーダーの存在。モディはその抜群のコミュニケーション能力により、有権者の心をがっちりつかんだ。

さらにヒンドゥー至上主義や、特に女性や貧困層をターゲットにした福祉政策、そしてパワフルな組織力が得票につながった。また、モディの闇の政治力と、まとまりを欠いた野党、そして莫大な選挙資金も長期にわたる一党支配に貢献した。

そんなBJPの圧倒的な覇権は、今後も長く続くかに見えた。だが、頂点の先にあるのは下降しかない。もちろん、BJPはまだしばらくは頂点付近にとどまるかもしれない。だが、その下降はもはや「起きるかどうか」ではなく、「いつになるか」の問題だ。

複数の政党が激しい競争を繰り広げるのは、民主主義政治の特徴の1つ。ところが実際には、驚くほど多くの国で1つの政党が長期にわたり政権を担ってきた。

日本の自由民主党やイタリアのキリスト教民主党、メキシコの制度的革命党(PRI)、ボツワナの民主党がいい例だろう。独立直後のインドの場合、国民会議派がそれだった。

これら支配的な政党は、権力を握っているときは無敵に見えるが、転落するときは、実にあっけなく転落する。経済発展や技術の進歩により、従来の経済構造や社会集団の力関係が変わったことがきっかけになることもある。

インドの場合、緑の革命(農業技術革新)により、国民会議派に長年無視されてきた中位カーストの農民が豊かになり、政治的発言力を強めた。その結果、人口の多い北インドで、国民会議派は相次ぎ敗北を喫するようになった。

製造業からサービス業へのシフトと、それに伴う労働組合の衰退も、それまで支配的だった中道左派政党の支持基盤を揺さぶった。