ガザ戦争とICC:「法の支配」貫く最後の砦に

AI要約

ICC検察局がイスラエルのネタニヤフ首相らへ逮捕状を請求し、国際刑事裁判所の役割に注目が集まっている。

国際社会の分断や二極化が進む中、ICCは法の支配の重要性を示す存在であり、過去からの経緯や役割について解説されている。

2023年にはプーチン露大統領の刑事責任をICCが問う動きがあり、その影響や国際社会への広がりについても言及されている。

ガザ戦争とICC:「法の支配」貫く最後の砦に

菅野 志桜里

イスラエルのネタニヤフ首相らに対し、国際刑事裁判所(ICC)の検察局が5月20日、逮捕状を請求したとのニュースは世界を揺るがした。ホロコーストを経て誕生した国家に、国際人道法違反の嫌疑がかかる事態をどう考えるべきか。ICCと日本をつなぐ活動に取り組んできた菅野志桜里・国際人道プラットフォーム代表は「法の支配」の貫徹を強く訴える。

現代の国際社会は、民主主義国と権威主義国の分断が進むとともに、米中主導の二項対立から距離を置こうとする国家群も少なくない。その結果、世界には幾つもの「ミシン目」が生まれ、放置すれば裂けてしまう危うさをはらんでいる。

「法の支配」が担うのは、こうしたミシン目を包摂し、再び結びつける役割だ。とりわけ国際法違反のコアクライムを処罰・抑止するICCは、「法の支配」における最後の砦と呼ぶべき存在である。

ICCとは、ジェノサイド(集団殺害)・戦争犯罪・人道に対する罪・侵略犯罪の4つのコアクライムに対し、国際法に基づいて個人を裁く常設の国際裁判所である。

第二次世界大戦後、ナチスによるホロコーストの実態に衝撃を受けた国際社会は、1948年、国連でジェノサイド条約を採択した。ジェノサイドは多くの場合、強権的指導者の支配や関与の下で行われるため、国内裁判所の機能はほぼ期待できない。そこで、この条約において国際刑事裁判所の必要性が確認されたことが、ICC発足の起源となる。

しかし、その後の冷戦構造はICCの実現を阻み、根拠条約たるICC規程が採択されたのは1998年、実際に活動を開始したのは2003年のことであった。冷戦とその終了、そして1990年代の内戦や地域紛争における人道危機の激化を背景に、ジェノサイド条約における合意の実現までには約半世紀を要した。

2024年6月現在、ICCは124の加盟国をもち、地域別にみるとアフリカ33、アジア太平洋19、東欧19、中南米28、西欧その他25である。安保理常任理事国5カ国のうち、米国・中国・ロシアの3カ国は加盟していない。経費は国連に準じた分担率で加盟国により運営されるため、現在まで日本が最大の分担金拠出国となっている。

活動開始から約20年を経た2023年7月、ウクライナ戦争におけるプーチン露大統領の刑事責任を問うべくICCが逮捕状を請求・発布したことは大きな国際ニュースとなった。逮捕状発布は、対象者に「コアクライムの容疑者」というレッテルを貼ることと等しい。そして、逮捕協力義務を負う加盟124カ国への事実上の渡航制限を意味する。この点、逮捕状発布後の昨年11月に124番目の加盟国となったアルメニアは、プーチン大統領との一種の決別を覚悟したとみることもできるだろう。また、軍人を含む自国民が国際裁判所で裁かれることを嫌ってICCに加盟していない米国も、この逮捕・捜査に関しては即座に支援を申し出るなど、共感の輪が広がった。