オラフ・ショルツ独首相「プーチン露大統領の帝国主義は失敗する─欧州の軍事力を強化し、フランスの“核抑止力”を欧州防衛に活用したい」

AI要約

ヨーロッパはNATOを通じ、安全保障面で米国に頼ってきた。しかし、エマニュエル・マクロン仏大統領は、米国にすべてを委ねるのではなく、欧州独自の安全保障体制を強化しなくてはいけないと主張している。

プーチン露大統領によるウクライナへの侵略は、ヨーロッパの平和秩序に挑戦するものであり、「歴史的転換点」と表現されている。しかし、EUやドイツなどがウクライナ支援に積極的であり、プーチンの帝国主義は成功しないとの見方が示されている。

ドイツは自国の安全保障を重視し、軍の再建・近代化に取り組んでいる。GDPの2%以上を国防費に費やし、ヨーロッパで最強の軍隊を目指している。

オラフ・ショルツ独首相「プーチン露大統領の帝国主義は失敗する─欧州の軍事力を強化し、フランスの“核抑止力”を欧州防衛に活用したい」

ヨーロッパはNATOを通じ、安全保障面で米国に頼ってきた。しかし、エマニュエル・マクロン仏大統領は、米国にすべてを委ねるのではなく、欧州独自の安全保障体制を強化しなくてはいけないと、英誌「エコノミスト」に述べた。その主張への応答として、ドイツのオラフ・ショルツ首相が同誌への寄稿のなかで自身の考えを明かしている。

5月初め、私はリトアニアのギタナス・ナウセーダ大統領とともに、同国東部の小さな町パブラデの郊外を訪れた。そこで私が目にしたのは、轟音を立てて砂の平原を走る、ドイツ軍のボクサー装甲車だ。ベラルーシとの国境から10キロメートル以内のところで迫撃砲が発射され、爆発音が響き渡っていた。茂みや木々は分厚い煙に覆われていた。

83年前の1941年、アドルフ・ヒトラー率いるドイツ国防軍はリトアニアに進軍した。そうして、同国をはじめ、中東欧の国々を、米歴史学者ティモシー・スナイダーの言う「血の国」に変えていったのだ。現代のドイツ軍はそれとはまったく対照的だ。平和と自由を守り、帝国主義的な侵略者を抑止するため、他の同盟国と協力してきたのである。

このようなことから感じられるのは、ヨーロッパがどれほど進歩したかだ。かつての敵は同盟国になり、私たちを隔てていた壁や鉄のカーテンは取り払われた。何十年もの間、民族間の戦争は起こらなかった。なぜなら、私たち全員がいくつかの基本原則を守っていたからだ。二度と国境を武力で変更してはならないというものだ。すべての国家は大小を問わず、主権を尊重されなければならない。隣国を恐れて暮らすべきではないのだ。

これらの原則は、ウラジーミル・プーチン露大統領がウクライナを侵略し、攻撃したことでことごとく打ち砕かれた。ヨーロッパの平和秩序に対するこの攻撃を、私は「歴史的転換点」と呼んでいる。プーチンの動機は、その公式の発言からも明らかだ。彼が目指すのは、ウクライナとベラルーシをロシアの傀儡国家にし、帝政ロシアを復活させることである。

この無慈悲な帝国主義の追求がいつどこで終わるのかは、おそらくプーチン自身を除いて誰にもわからない。わかるのは、彼がまた別の国を「血の国」にするのをためらわないということだ。

それでも、プーチンの残忍な帝国主義は成功しないだろう。現在、欧州連合(EU)とその加盟国は、ウクライナに対して最大の財政・経済的支援をしている。ドイツだけでもすでに280億ユーロ(約4兆7500億円)の軍事支援を約束しており、米国に次ぐ規模だ。しかし、忘れてはならないのは、プーチンが望むのは長期戦だということだ。彼は、私たちのような民主主義国家が今後長年にわたってウクライナを支援し続けるのは不可能だと考えている。

プーチンが間違っていると証明するため、私たちはウクライナに対する国民の幅広い支持を維持しなくてはならない。つまり、同国への支援は自国の安全保障に不可欠な投資であると繰り返し説明する必要がある。さらに戦争拡大を恐れる人々の懸念にも対処しなくてはいけない。

だからこそ、ロシアとの対立を深めているのは北大西洋条約機構(NATO)ではないこと、私たち自身がこの紛争の直接の当事者になるようなことは一切しないことを明確にするのが重要だ。この戦略によって、これまでのところドイツ国内での支持は高く維持されている。だからプーチンは、「ドイツはウクライナを必要な限り支援する」という私たちの発言を真摯に受け止めるべきだ。

政府が国民に果たすべき最も基本的な公約は、国民の安全と安心をあらゆる面で提供することである。安全が保障されなければ、他のものは何も意味をなさないからだ。ドイツでは憲法を改正し、軍隊の再建と近代化のために1000億ユーロ(約17兆円)の基金を設立した。私たちの目標は、ドイツ連邦軍をヨーロッパで最強の通常兵器を持つ軍隊にすることだ。

2024年以降、ドイツはGDPの2%以上を国防費に費やす。そして第二次世界大戦後初めて、完全な戦闘をできる旅団をドイツ国外のリトアニアに常駐させる。パブラデにいる部隊は前衛にすぎない。また、より臨戦態勢にあるドイツ軍の師団、その他の重要な航空・海上資産もNATOに提供する。ドイツは前例のないほど、安全保障と防衛政策を大転換させているのだ。