【阪神】あてもなく歩き片道10キロ…復活星の高橋遥人が越えたどん底「ミット音もきつかった」

AI要約

高橋遥人投手が1009日ぶりの1軍マウンドで好投し、1025日ぶりの白星を挙げた。不屈の精神で逆境を乗り越え、チームに勝利をもたらした。

高橋は度重なる手術や苦境を乗り越え、自らの限界を超えるために努力し続けてきた。その姿勢が復活の一因となった。

阪神は今後、首位の広島や2位の巨人との試合に向けて、高橋遥人投手の活躍を背景に戦いを続けることになる。

【阪神】あてもなく歩き片道10キロ…復活星の高橋遥人が越えたどん底「ミット音もきつかった」

<阪神-広島>◇11日◇京セラドーム大阪

 ハルト、ありがとう! 阪神高橋遥人投手(28)が1009日ぶりの1軍マウンドで5回4安打無失点7奪三振と好投し、1025日ぶりの白星を手にした。引き分け以下で自力優勝の可能性が消滅していた一戦で、広島相手のカード3連敗を阻止。肘や肩など度重なる手術を乗り越え、逆転Vの使者に名乗りを上げた。チームは首位広島とのゲーム差を3に縮め、12日からは2ゲーム差で追う巨人との3連戦(東京ドーム)に臨む。

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 1009日ぶりの1軍マウンドへ、高橋がベンチから歩き出す。球場中から自然と大歓声が湧き起こった。1歩1歩進むにつれて上昇する声量。想像を超える期待感を肌で感じ取り、全身に力が宿った。

 「何としても応えたいと思ってずっとやってきた。今は本当に夢のようです」

 5回を7奪三振4安打で無失点。両親も見守る前で1025日ぶりの復活星だ。4回2死満塁では代打石原を空振り三振。幾度となく苦境を乗り越えてきた男は、簡単に崩れなかった。

 どん底は約4年前だった。20年シーズンの後半からボールにうまく力が伝わらず、抜け球が増えた。21年春も症状は改善せず、腕を気にするうちに右脇腹を負傷。負の連鎖が重なった。

 「その時はキャッチャーミットの音を聞くのもキツかったですね…」

 当時は鳴尾浜での練習後、あてもなく1人で歩き続けた。草木に囲まれた武庫川土手沿いの一本道を、ただただ進む。川のせせらぎも鳥のさえずりも、音楽を聴いてシャットアウト。「このままで大丈夫なのかな…」。不安を押し殺すように自分の世界に入り込んだ。2時間以上が過ぎ、片道10キロを超える阪神競馬場も通過。気づけば歩く場所すらなくなっていた。

 「もう歩くところも時間もねえなって。帰るのも時間がかかるし。僕の暗黒期ですね」

 21年オフに左肘クリーニング手術を受け、長いリハビリ生活を開始。同じく復帰を目指す小川や伊藤稜らと毎日走り込み、靴はすぐにボロボロになった。復活を願う周囲の声にも支えられながら、プライドがあったからこそ立ち上がれた。

 「自分のボールはこんなもんじゃない。ずっと小さい時から野球をやってきて、こういう感じで終わりたくなかった」

 23年6月には左肩クリーニング手術と合わせて、プロ野球界で異例の「左尺骨短縮術」を受けた。自身最後の手術。左腕には約8センチに及ぶ金属プレートが入れられた。当初の症状は改善したが、プレートで可動域が狭まり違和感はゼロではない。それでも今は「サイボーグです」と笑い飛ばせる。「投げづらさもあるけど、良くなっている実感さえあれば前を向けるので」。

 お立ち台では投球について「完璧です」と答え、すぐに「ウソですウソです!」と焦って爆笑を誘った。「無駄なランナーを出したので次は修正できるように」。余韻に浸る間もなく、救世主は次の目標へ走り出した。【波部俊之介】

 ◆高橋の前回1軍登板 21年11月6日、巨人とのCSファーストステージ第1戦(甲子園)に先発。6回3失点ながら敗戦投手。これが同年最後のマウンドとなった。前回1軍白星は21年レギュラーシーズン最終登板の10月21日中日戦(甲子園)。8回無失点9奪三振で4勝目を挙げた。

 ▽阪神梅野「(昨年8月に)自分が骨折した時から、遥人も手術していて『また梅野さんと組めることを楽しみにしてます』って言ってくれて。ずっと同じことを続けるしんどさがあったと思うけど、そういうのを見ているから、特別な思いが今日すごくあった」

 ▼阪神は直近3年間の長期ロード期間中、東京ドームで12勝3敗、勝率8割と勝ちまくっている(21年東京五輪期間中のDeNA3連戦2勝1敗を含む)。巨人戦では22年8月19日から23年8月26日まで8連勝も記録した。開場した88年から20年までの長期ロード期間中は30勝79敗6分けの勝率2割7分5厘と鬼門だったが、見事に克服。V争いの正念場が続くチームに、心強いデータである。