炎鵬が脊髄損傷から復帰も貴景勝は慢性的首痛で大関陥落…現役続行の危険性は?スポーツ専門医の見解

AI要約

横綱・照ノ富士の10度目の優勝で名古屋場所が幕を閉じた。横綱の健闘や負傷力士の問題、そして炎鵬の復帰について様々な視点が寄せられている。

公傷制度の復活やスポーツ医学の進歩に注目が集まり、現行制度の見直しを求める声も出ている。

相撲界が選手の安全と安定した活動を守るために、専門家との協力や人材育成に力を入れるべきだとの提言もある。

炎鵬が脊髄損傷から復帰も貴景勝は慢性的首痛で大関陥落…現役続行の危険性は?スポーツ専門医の見解

大相撲名古屋場所は、横綱・照ノ富士の10度目の優勝で幕を閉じた。2場所連続の途中休場明けで3場所ぶりという優勝に八角理事長は、

「立派だし、褒めてあげたい。横綱がいたからこそ盛り上がった」

と高く評価した。

膝に古傷、腰に痛みなどがある中での優勝に横綱審議委員会(横審)の山内昌之委員長(東大名誉教授)も、

「病を抱えている横綱として12勝3敗。立派な成績ではなかったかと思う」

と述べた。一方で、先場所に負け越して関脇に転落した霧島や、カド番での負け越しで関脇への転落が決定した大関・貴景勝についても触れ、

「これはかなり由々しき問題だと思う。大関の地位は軽々しいものではない。大関が最高位の時代もあったわけで、ほとんど横綱に準じる」

などと厳しい見解を示した。ただ貴景勝は慢性的首痛に苦しんでおり、完治しない限り「大関の地位を維持するのは難しい」と言われていたこともあって、

「土俵上における力士の負傷、その他に基づくアクシデントをどのようにして考えるか。いわゆる公傷制度に関わる問題をもう一度、本格的に考えないと」

などと、力士がケガで休場するたびに話題となる「公傷制度」復活に含みを持たせる発言もしている。

「今場所は、幕内の朝乃山が4日目に左膝の前十字靱帯(じんたい)断裂などで5日目から休場。長期離脱は確実で1年は戻れない可能性もあります。そうなると再び三段目まで番付を落とすことになる。SNSには『土俵上でのケガなのだから公傷を認めるべき』といった声も少なくありません」(スポーツ紙記者)

ケガといえば、炎鵬が頚部椎間板ヘルニアに加え、脊髄損傷で寝たきりの状態から約400日ぶりの復帰を果たしたことも話題になった。番付では一番下位の序ノ口での取り組みとなったが結果は6勝1敗で見事復活。来場所は序二段復帰が濃厚となっている。炎鵬は、

「ほっとしています。相撲は楽しい。土俵に上がれる喜びは何ものにも代えがたい」(『サンケイスポーツ』7月26日付)

と喜びを口にしたが、SNSでは《復帰はうれしいが、ここまで来れば命がけだな》《マイペースで無理をしないように》などとケガを心配する声も少なくない。現役を続ける以上、ケガは付きものというが、炎鵬の場合は一生歩けなくなるかもしれないほどのケガを負っての復帰である。現状を医師はどのように見ているのだろうか。

「炎鵬は復帰のために手術を回避し、リハビリだけでここまで回復されたようです。今場所の動きを見ても手足の筋力に障害がある状態とは思えず、ヘルニアが消失、脊髄の圧迫がない状態に改善、そこから適切に筋力の強化が行われたものと思われます。ヘルニアは一度なると治らないものというイメージがありますが、そうではありません。椎間板を今川焼き(大判焼き)に例えると、ヘルニアは皮から“あんこ”が飛び出した状態になります。

“あんこ”は人体にとって異物で、マクロファージなどの細胞が食べることで知られています。それらの細胞を活性化させることにより“あんこ”を消失させるのです。細胞レベルでの話なので実際にヘルニアの大きさに変化が出るのは3ヵ月以上の期間が必要になりますが、時間の経過によりヘルニアが消えてなくなることもあるわけです」(日本体育協会公認スポーツドクター・伊藤雄人氏)

では、復帰に関してはどうだろう。

「本人や家族、周囲や協会が正しく現在の状況を理解することが一番大切なことだと思います。最終的には正しく理解したうえで本人の人生ですので選択を尊重すべきだと思います。

炎鵬の取り口はどうしても大柄な力士に上からのしかかられる形になってしまうので、首への負担が大きくなるのは想像にたやすく、いくら本人の選択を尊重するといっても、関わった医師やトレーナーは再受傷しないか肝を冷やしているに違いありませんが……」(前出・伊藤医師)

と、本人の意思を尊重しつつも、医師を含めた周囲がしっかり状況を把握することが大切だと語った。ただ、相撲界にはいまだ「根性論」や「稽古を増やせば治る」「四股を踏んでテッポウを徹底的にやればケガをしない」といった論調が根強くあることも確かだ。伊藤医師はこのように提案する。

「ここ数十年でスポーツ医学も進歩し、医師や理学療法士、トレーナー、現場との連携もよくなっています。『根性が足りない』『稽古が足りない』『現在の筋トレが間違っている』などと言わずに、お互いの知識と経験を融合させてよりよい相撲界になっていってほしいと思います。相撲はスポーツ界とは一線を画した文化と考えられているのかもしれませんが、だったらもっと自分たちの中や力士から引退後にセカンドキャリアとして医師になる、トレーナーになるなど、人材育成にも力を入れていってほしいと思います」(前出・伊藤医師)

ファンが望むのは、贔屓の力士が常に土俵上で力強い取り組みを見せ、長く現役を続けてくれること。そのためにも、「公傷制度」の復活も含めた現行制度の見直しを本格的に考える時期に来ていると思うが……。