パリ五輪でアスリートに相次ぐ誹謗中傷 スポーツ庁が警鐘「アスリートも一人の人間」対策乗り出すも…実らぬ現実

AI要約

パリ五輪ではアスリートに対するSNSを通じた誹謗中傷が問題となっている。選手たちの辛い状況や勇気ある姿に対する批判が続出し、過去の大会でも同様の事例が続いている。

競技中に起きた不可解な判定や結果に対し、選手同士や選手に向けられる誹謗中傷が続いている。アスリートたちが尊重され、尊厳を守られる環境づくりが喫緊の課題となっている。

スポーツ庁や関連団体は、誹謗中傷対策に取り組んでいるものの、依然として問題は根深く、選手たちへの誹謗中傷は減る気配がない。

パリ五輪でアスリートに相次ぐ誹謗中傷 スポーツ庁が警鐘「アスリートも一人の人間」対策乗り出すも…実らぬ現実

 パリ五輪は競技開始から1週間が経過。各会場で熱戦が繰り広げられているが、その裏ではSNSを通じたアスリートへの誹謗中傷が相次いでいる。東京五輪でも問題視された選手への心ない声を減らそうと、スポーツ庁も過去に声明を発表したり、各団体への聞き取り調査を行うなど注力してきたが、今回も問題が次々と表面化している。

 男女混合競歩リレーに専念するため、女子20キロ競歩への出場辞退を発表した柳井綾音は発表後に自身のXを更新。「今回の20kmWの辞退の件ですが、たくさんの方から厳しい言葉に傷つきました」と誹謗中傷を受けたことを明かし、「批判は選手を傷つけます。このようなことが少しでも減って欲しい」と訴えた。

 パリ五輪柔道男子60キロ級では、永山竜樹が直前に「待て」がかかった後も絞め続けられ、不可解判定で一本負けを喫したことに端を発し、対戦相手のフラン・ガルリゴス(スペイン)のインスタグラムに心無い声が殺到した。これには永山自身が、SNSで「お互い必死に戦った結果なので、ガリゴス選手への誹謗中傷などは控えて頂きたいです」と、呼びかける事態となった。

 同じく柔道女子52キロ級では、まさかの2回戦敗退を喫した阿部詩の号泣に対し、批判の声が多数書き込まれ、2000年シドニー五輪競泳日本代表の萩原智子さんが「言葉を発する前に少しだけ考えてみませんか?」と自身のXに投稿し、誹謗中傷に警鐘を鳴らすなど、次々に問題が表面化している。

 こういった問題に対し、スポーツ庁も対策に苦心してきた。22年冬季北京五輪直前には、室伏広治スポーツ庁長官が、「アスリートへのSNS等での誹謗中傷について」の声明を発表。「アスリートも一人の人間」と表現した上で、選手の尊厳を傷つけたり、根拠のない憶測をもと非難する言葉などについて、書き込み・投稿しないように呼びかけた。

 またパリ五輪開幕前には、「アスリートへの性的ハラスメント及び誹謗中傷の防止に向けた取組に関する調査結果」を公式HPで公開。日本オリンピック委員会(JOC)をはじめとする統括団体や、各競技団体に対して行ったアンケート調査の結果を明らかにした。

 調査では「選手だけでなく、指導者等スタッフにも誹謗中傷が及んでおり、幅広い取組と継続的な注意喚起が必要」といった声や、「選手個人に届くDMには踏み込むことができず、プラットフォーム事業者に通報してもすぐには削除されない」といった悲痛な声が集まった。

 また過半数の団体が、誹謗中傷の防止に向け、研修や講習会等を通じた周知・指導、相談窓口の設置、大会開会期におけるネットパトロールの実施等を行っていると回答。特にJOCは、パリ大会時、競技に関わる選手団全員のメンタルヘルスを守る心の専門家、スポーツの場面でのあらゆるハラスメントや誹謗中傷等の言葉の暴力で悩んでいる選手をサポートする専門家を配置するなど、アフターケア策を講じているが、その原因となる心ない声自体は止んでいない状況だ。