デラフエンテ監督就任後2冠のスペイン カタールW杯から大幅低下したボール支配率が成功の鍵に

AI要約

スペイン代表が欧州選手権でイングランドを破り、12年ぶりのヨーロッパ王者に輝いた。

指揮官の戦術変更や選手の活躍、ローテーションの活用などがスペイン成功の鍵となった。

選手たちは次なる目標を掲げ、プレシーズンに向けて準備を進めている。

 スペイン代表が初戦からの勢いを維持したまま、欧州選手権決勝で保守的な戦いぶりに批判の声が挙がっていたイングランドを2-1で破り、12年ぶり、史上最多4度目のヨーロッパ王者に輝いた。同じ日にスペイン人のカルロス・アルカラスがテニスの4大大会第3戦、ウインブルドン選手権に優勝したため、スペイン中が二重の歓喜に沸いていた。

 ■決勝の視聴率は78・7%

 スペインは開幕当初、イングランド、ドイツ、フランスなどに次ぐ優勝候補の4~5番目と目され、国民の関心はそこまで高くなかった。しかし、イタリア、ドイツ、フランス、イングランドという欧州のワールドカップ(W杯)優勝国をすべて撃破。その内容を振り返ってみると、欧州王者に最も相応しいチームだったと言えるだろう。スペイン国内の注目度は日に日に高まり、決勝の視聴率は78・7%に達していた。

 ではスペイン成功の鍵は一体なんなのだろうか?

 前任者のルイス・エンリケ監督率いるチームは、1年半前のワールドカップ(W杯)カタール大会で1試合平均76・3%という圧倒的なボール支配率を誇示。しかしボールを持ちすぎたことが裏目に出て、相手に徹底的に守りを固められて攻めあぐみ、決勝トーナメント1回戦で姿を消していた。

 後を引き継いだデラフエンテ監督はその教訓を生かし、ポゼッションサッカーからの脱却、ボールロスト後のハイプレス、サイドのスピードを生かしたカウンターという新たな戦術を導入する。これによって相手の背後にできたスペースをうまく突き、タイトル獲得に向かって順調に突き進んでいった。

 ■ヤマルとニコの両翼活躍

 指揮官が若手とベテラン、個と組織をうまく融合させ、ベストのスタメンを見出したことも重要な要素となった。GKウナイ・シモンを中心に強固な守備を構築し、中盤のペドリ、大会MVPのロドリ、ファビアン・ルイスがゲームをうまくコントロール。

 サイドバックのカルバハルとククレジャは果敢なオーバーラップで攻撃にも大いに貢献し、ニコ・ウィリアムスと今大会唯一の未成年で最優秀若手選手賞に選ばれたヤマルの両翼はその突破力で特に大きな注目を集めた。そして、キャプテンを務めたエースのモラタはわずか1点に終わるも、前線で体を張ってチームを鼓舞し、チームは攻守のバランスがうまく取れたサッカーを展開していった。

 レギュラー陣と遜色ない働きをしたベンチメンバーの存在も大きい。ペドリの負傷離脱によりチャンスを得たダニ・オルモは3ゴールを記録して、大会得点王をケインら5人と分け合った。

 レアル・ソシエダードの選手たちは途中出場から勝利に貢献。ミケル・メリーノとオヤルサバルはそれぞれ、ドイツ戦とイングランド戦で決勝点を記録し、スビメンディは決勝の後半、負傷したロドリの代役を見事に務め上げた。ピッチに立った選手たちが次々と機能した。

 ■26人中25人使い体調維持

 また、1カ月で7試合を戦う過密日程の中、消化試合となった1次リーグ最終節アルバニア戦で10人を入れ替える大幅なローテーションを実施し、レギュラー陣を休ませられたことも重要な要素と言える。これによりデラフエンテ監督は登録メンバー26人中、第3GKレミーロを除く25人に出番を与え、良好なコンディションを維持することに成功。さらに決勝では日程の関係で、イングランドよりも1日休みが多かった。

 “事実上の決勝戦”と呼ばれたホスト国ドイツとの準々決勝のように苦しい展開もあったが、皆が一丸となって最後まで戦い抜き、直近5大会で3度目の欧州制覇を達成。選手たちは各々、43万4615万ユーロ(約7388万4550円)の賞金を手にすることになった。

 スペインの最終成績は7試合7勝、15得点4失点、パス成功率90・2%。ボール支配率は58・15%とW杯カタール大会を大きく下回ったが、参加24チーム中唯一の100の大台を超える123本のシュートを放ち、最多42本(1試合平均6本)のシュートを枠に飛ばす攻撃的なサッカーを披露した。これらの数値はスペインのプレーが正確かつ効果的だったことを示している。

 ■「欧州王者の次はW杯」

 昨年3月の初陣以降、21試合17勝2分け2敗の9連勝中と好成績を収め、すでに欧州ネーションズリーグと欧州選手権の2冠を達成しているデラフエンテ監督はイングランド戦後、「このチームの良いところは、常に少しでも良くなろうと考えていること。自分たちの選手は皆にとっての良いお手本であり非常に優秀なので、我々は今後もこのような偉業を成し遂げていく」と新たなタイトル獲得を誓った。

 同様にイングランド戦で先制点を記録し、決勝のMVPに輝いたニコ・ウィリアムスも「欧州王者になったので、次はワールドカップだ」とすでに2年後を見据えていた。

 スペインに大きな喜びをもたらせた選手たちだが、ゆっくり立ち止まっている暇はない。優勝の余韻に浸りながら束の間の休みを満喫した後、すでにプレシーズンを開始している所属クラブに復帰して、開幕が1カ月後に迫る24-25年シーズンに備えることになる。

 【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)