《稲尾以来の大記録達成》今季打率.360! 打って良し投げて良しのカープ森下暢仁が高打率を残せる“進化”の理由

AI要約

森下暢仁は投手としてだけでなく、打者としても活躍している広島カープの選手。彼は投打にわたる活躍でチームを勝利に導く姿勢を見せている。

大学時代から打撃センスの高さを発揮し、プロ入り後も打率.360をマークするなど、投手としても野手としても優れたパフォーマンスを続けている。

森下は常に勝利への渇望を持ち、ピッチングと打撃の両方で結果を出すことを意識し続けている。今季も6勝3敗、防御率1.62という好成績を残している。

《稲尾以来の大記録達成》今季打率.360! 打って良し投げて良しのカープ森下暢仁が高打率を残せる“進化”の理由

 投高打低が色濃い今季のプロ野球界で、打率.360をマークする選手がいる(データはすべて7月14日時点)。打席数は規定打席の1割程度にとどまるものの、コンスタントに打席に立っている選手。それが広島の投手、森下暢仁だ。

 5月4日のDeNA戦では投打にわたる活躍でチームを勝利に導いた。味方の2失策をきっかけに先制を許す展開で、森下は二塁打、単打とヒットを重ねてナインを鼓舞。それでも得点を奪えないまま迎えた1点ビハインドの7回、1アウトから逆転の口火を切る3安打目を放ち、広島ベンチに向けて右手を突き上げた。

「三振しないで打球を前に飛ばしたいと思っていたので、ヒットになって良かったです。2打席目で打った時にちょっとニヤニヤしてしまった。3打席目は点がほしいなと思って、(右手を挙げて)真顔でベンチを見ていたんですけど、あんまりいなかったですね、人が」

 そう笑って振り返ったが、投打に奮闘する姿がナインにも伝わって手にした勝利だった。

 6月25日のヤクルト戦でも猛打賞を記録した。この日は投げてもすごかった。91球での完封“マダックス”達成で6勝目を挙げた。「100球未満での完封」と「猛打賞」を同試合で記録したのは、1968年9月1日に稲尾和久(西鉄)が近鉄戦で記録して以来だという。

 また、投手のシーズン2度の猛打賞は2002年のトレイ・ムーア(阪神)以来で、日本人投手では85年の川口和久(広島)以来。投手と野手の役割がより明確化されたプロ野球界で、今季の森下の打撃は出色のパフォーマンスと言える。

 大分商高時代は投手だけでなく、ショートやサード、外野でも試合に出ていた。部員数がさほど多くなかったこともあり、全体で同じ練習をしながら、投手練習を行う日々。試合になれば、ヘッドスライディングすることも珍しくなかった。ケガのリスクなど考えていない。3年時に中央球界から注目されたが、高卒でプロ入りするわけでもなく、明大へ進学。投手と野手で練習メニューが変わるなど、色分けされるようになった。

「高校まで普通にピッチャーと野手をやっていたので、大学に入って急に分業になるのはなんでなのかなって」

 違和感を覚えながらも、東京六大学野球では投手として打席に立った。投手と向かい合えば、野手としてもプロから注目された高校時代の感覚が蘇る。

 主戦となった3年時の18年春季リーグでは8試合で、3勝2敗、防御率3.00の投手成績とともに、打率.409の打撃成績を残した。大学最後の秋季リーグ戦では7試合登板で防御率1.00(2勝3敗)、打率.360をマーク。代打から2試合出場した。

 20年にカープに入団すると、当初から打撃センスの高さを感じさせていた。2年目にはセ・リーグ投手最多タイの10犠打を記録し、23年にはプロ初本塁打を放った。それでも、プロの投手のレベルは高く、昨季までシーズン最高打率は22年の.190だった。だが、打撃感覚は勝利への渇望とともに研ぎ澄まされる。昨季は6月3日のソフトバンク戦から、森下は安打を記録した9試合すべてで勝ち投手となって、チームを勝利に導いている。

「ピッチングが良かったら、打ちたいなと思って打席に入っている。“9番目の打者”とかは考えず、普通に。投手は毎日試合に出られるわけではないので、その1試合で自分の人生が変わる。1週間に1回、そこで結果を出さないといけない。そういうことだけ考えています」

 昨オフの契約更改時、米大リーグ移籍への思いをあらためて口にした。海を渡るためにも、まずはチームで認められる存在に──。広島球団はこれまで、そうやって選手を送り出してきた。

 以前、森下に「エースになるために必要なもの」を尋ねると、即答だった。

「結果です」

 今季は12試合で6勝3敗、防御率1.62。11試合でクオリティースタートを記録する。一昨年の右肘クリーニング手術の影響が払拭され、直球の切れが増した。さらに握りを分けた2つのチェンジアップを使い分け、カットボールと対となる球種ツーシームも右打者にはやっかいな存在になっている。