カメラマン席で直立、相手の校歌を聞いた補助員の1年後 グラウンドで憧れ現実にする姿に見た“成長”

AI要約

湘南工科大附の捕手、薩美賢仁郎の活躍と成長が描かれた記事。

薩美は昨年は補助員として試合を見守り、今年はグラウンドで校歌を歌う姿が描かれる。

自分の成長に誇りを持ち、チームのために全力を尽くす薩美の姿が紹介されている。

カメラマン席で直立、相手の校歌を聞いた補助員の1年後 グラウンドで憧れ現実にする姿に見た“成長”

 第106回全国高校野球選手権の神奈川大会は、7日から熱戦を展開中。「THE ANSWER」では、168チームが参加するこの大会にカメラマンが密着し、フォトコラムを連日掲載していく。第3回で取り上げるのは、湘南工科大附の背番号「2」。薩美賢仁郎捕手(3年)だ。10日に藤沢市八部野球場で行われた2回戦で、県商工を4-1で下し3回戦へ。昨夏は補助員として、相手の校歌をカメラマン席から見守った球児が1年後、グラウンドに立って自分たちの校歌を歌った。(写真・文=THE ANSWER編集部・中戸川 知世)

 喜びがあふれた表情で、校歌を歌った。試合中は、笑顔で投手の球を受ける背番号2の姿があった。グラウンドの左翼側にあるブルペンで「低く低く」、そう投手に声を掛けていたのが薩美。試合中、球を受けてはベンチへ戻り、声援を送る。最後に勝利の校歌を歌うまで、足にレガースをつけたままだった。

「かっこいいなって」。グラウンドで校歌を歌う姿が憧れだった。1年前はなかった背番号をつけてベンチ入り。夏の初戦を勝利で飾り、念願をかなえた。

 昨夏の姿を思い出す。実は1年ぶりの再会だった。横浜に敗れた4回戦では、試合運営の補助員としてブルペン捕手を務めていた。薄暗いカメラマン席で、横浜の校歌を直立して聞いていた。

 だから「負けた時の悔しさを知っているので、相手の分まで頑張ろうと」。敗れた選手の気持ちもよく分かる薩美は大切に、嬉しさが伝わるような晴れやかな表情で勝利の校歌を歌い上げた。

 自分の世代となり、秋春の大会ではスタメンマスクをかぶってきた。ただ守備の調子が上がりきらず、今大会はベンチスタート。悔しい気持ちももちろんある。しかし、見えないところでまっすぐ“筋を通す”姿勢は変わっていなかった。

 試合前のシートノックのタイミング、この日の薩美はブルペンにいた。「今日の先発(投手)は、自分が秋春と受けてきたので。一番良い所を引き出せれば」と最後までコンディションの把握に努め、チームの勝利に尽くそうとしていた。

 昨年と変わって、最上級生として引っ張っていくという自覚があふれ、どっしりと構えていた。高校2年生から3年生へ。伸び盛りのひとりの球児の成長を目の当たりにした。