【パリ五輪1カ月前SP】ハギトモ先輩だから聞けた鈴木聡美の秘密…真っすぐさ・鬼練習・執着心

AI要約

鈴木聡美と山梨学院大先輩である萩原智子の対談から、鈴木の泳ぎへの真っすぐさ、厳しい練習への執着心、そして神田忠彦監督への尊敬が浮かび上がる。

萩原さんが新たな夢として絵本の制作に挑戦し、愛される絵本を出版する過程も紹介されている。

パリ五輪での競泳競技の展望やメダル候補についても概説されている。

【パリ五輪1カ月前SP】ハギトモ先輩だから聞けた鈴木聡美の秘密…真っすぐさ・鬼練習・執着心

<山梨学院大先輩後輩対談>

 日本競泳史上最年長の33歳でパリ・オリンピック(五輪)に臨む女子平泳ぎの鈴木聡美(ミキハウス)。21歳だった12年ロンドン大会では200メートル銀など3個のメダルを獲得した。一転、25歳で出場したリオデジャネイロ大会はメダル0、続く東京大会は切符を逃した。2大会ぶりの五輪となるパリ開幕まで、26日で残り1カ月。迫る大舞台を前に、00年シドニー五輪代表の萩原智子さん(44)と語り合った。紆余(うよ)曲折の歩み、恩師の神田忠彦監督(65)への思い、そして3度目の五輪-。山梨学院大の先輩との対談から、鈴木を支える3つのキーワードが浮かび上がった。【取材・構成=松本航】

 ◆真っすぐさ

 2人の出会いは09年春。山梨学院大に入学した鈴木は、この年に29歳で現役復帰した萩原さんと同大学のプールで初めて対面した。

 鈴木 「あの萩原さんと一緒に練習できる」ってワクワクしていました。そうしたら神田監督に「『私、まだ頑張れますか?』と聞いてこい」と言われて。

 萩原 私は監督から「面白い子がいる」って聞いていて。聡美がその質問をしてきて「すごく真っすぐな子だな」と思っていました。

 鈴木 指示されて言っただけで…。監督はニヤニヤと笑っていて…(笑い)。

 萩原 知らなかった(笑い)。それを指示通りにやる真っすぐなイメージは、33歳でも変わらないね。

 鈴木 その時から考えると「変わらない自分でいられているな」と「こんな年までできると思っていなかったな」が半分半分です。限界以上の力を引き出してくれるのが神田監督。「何で自分より周りの人たちの方が、私に詳しいんだ?」って驚きがありますね。

 ◆鬼練習

 飛躍の12年ロンドン五輪後は苦悩もあった。2人には30代も神田監督と歩んだ共通点がある。

 萩原 一番きつい練習って覚えてる?

 鈴木 リオ五輪翌年の2017年、1時間のインターバルトレーニングがありました。あれは2度とやりたくない。永井(裕樹)トレーナーのメニューでスクワットなど5種目を1分間ずつやって、2分間の休憩。また5種目をやって、2分間の休憩…。それを1時間繰り返す“鬼練習”を半年近くやりました。最初の3カ月は逃げ出したくなっていました。

 萩原 でも、聡美は頑張るじゃない(笑い)。

 鈴木 やらないと終われないんですよ!(笑い)

 萩原 私も神田監督と長かったけど、結果が出ない時には「この練習でいいのかな?」と半信半疑になった時期があった。東京五輪に出られなかったり、悔しい思いもしてきた中で、そんな経験はあった?

 鈴木 コロナ禍で周りが普通の生活ではなかった時、それでも黙々と練習する日々に「これが役に立つんだろうか?」と思っていました。拠点の変更も一瞬よぎった時があったんですが、冷静になると「この練習で私の体は育ってきたんだから、よそに行っても絶対に甘える」って考えました。

 萩原 神田監督は、聡美にとってどんな存在?

 鈴木 父親みたいです。常に厳しい言葉をかけてもらいます。

 萩原 褒められたことは?

 鈴木 この前、急に「聡美、だいぶ水泳が上手になってきた」と褒められました。33歳にして(笑い)。

 ◆執着心

 30歳を超えて臨んだ23年世界選手権100メートルで09年の自己記録1分6秒32を14年ぶり更新。今年3月の代表選考会では、さらに1分5秒91まで伸ばした。

 萩原 なぜ、ずっと猛練習を頑張れるの?

 鈴木 執着ですかね。監督、トレーナーに「絶対にいける」と言われ続け「確かに私、これだけ練習していても、病気もケガもしていないしな」となって。

 萩原 執着か…。でもそれだけ練習しながら悔しい結果になっても、周りをたたえる聡美を尊敬してます。

 鈴木 神田監督に「ライバルをたたえられる選手でありなさい」と言われ続けてきました。負けて悔しいけど、自分が出せない記録で勝つ選手を尊敬します。

 萩原 神田監督は「日本一練習する社会人」と褒めていました。パリはどんな五輪にしたい?

 鈴木 ロンドン五輪に続いて縁を感じるヨーロッパ開催。目標は記録も、実績も12年前を超えたいです。

 萩原 そのためにはやっぱり?

 鈴木 鬼練習しかないです。“誰か”ではなく、練習に立ち向かわないと結果はついてこない。記録やメダルに期待があると思いますが、皆さんにも「鈴木が鬼練習できますように…。ケガと病気がありませんように」と祈っていてもらいたいです(笑い)。

 ■神田監督と16年の歩み

 パリ五輪にもコーチとして同行する神田監督は、鈴木の指導歴16年目を迎えた。自身は東海大を卒業し、00年の山梨学院大水泳部創設と同時に監督就任。萩原さんや、12年ロンドン五輪女子400メートルメドレーリレー銅の加藤ゆかさんらを指導してきた。鈴木には「引退覚悟で泳げよ」と声をかけ、五輪へやり残しのない準備を進めている。

 33歳となった教え子の強みはテンポの速い泳ぎだ。継続するウエートトレなどと泳ぎがかみ合い、昨春の日本選手権で手応えが見えた。65歳の名伯楽は「劇的な何かで変わったという、うまい話はあまりない。“だんだん”です」と近年の成長を評する。

 3月の選考会後は国内に腰を据え、基礎固めから強化してきた。1カ月後の本番を「大舞台に強いですが、そうは言っても五輪。自己記録の更新へ、気負うことなくスタート台に立てればいい」と見据えている。

 ◆鈴木の今後 3月に五輪切符を獲得した後は国内調整。6月29~30日のサマーチャレンジ記録会(神奈川・相模原市立総合水泳場)に出場する。7月11日に日本をたちフランス・アミアンで直前合宿に入る。

 ■新たな夢…愛される絵本

 鈴木が3度目の五輪へ備える中、萩原さんも新たな夢に手をかけた。7月5日に自著「ペンギンゆうゆ よるのすいえいたいかい」(文芸社、税込み1650円)を発売。主人公は絶滅危惧種のケープペンギンで、仲間に支えられ、ライバルと戦って成長する様子を描いている。「本当の強さ、優しさは何だろう? と考える内容となっており、皆さまに愛される絵本になればうれしく思います」と願いを込める。

 昨年、息子に「大人も夢ってあるの? ママの夢って何?」と質問され、文芸社の「えほん大賞」に応募するきっかけになった。大賞こそ逃したが、応募原稿に共感した編集部から企画出版を提案された。現役時代から家族をはじめ、周囲から投げかけられた数々の言葉を大切に受け止めてきた。キーワードは「ことばのちから」。絵は「ワニはどうしてワニっていうの?」を手がけた絵本作家うよ高山さんが担当。自らの競泳人生を、幼い子どもたちにも分かりやすい絵本で伝える。

 ◆鈴木聡美(すずき・さとみ)1991年(平3)1月29日、福岡・遠賀(おんが)町生まれ。九産大九州高から山梨学院大を経て13年にミキハウス入社。五輪初出場の12年ロンドン大会は女子200メートル平泳ぎ銀、同100メートル銅、女子400メートルメドレーリレー銅メダル。16年リオデジャネイロ五輪も出場。現在も山梨学院大を拠点に、神田監督(パリ五輪は競泳代表コーチ)の指導を受ける。32歳の23年10月にマークした50メートル平泳ぎ(非五輪種目)の30秒10は日本記録。168センチ。

 ◆萩原智子(はぎわら・ともこ)1980年(昭55)4月13日、山梨・甲府市生まれ。山梨学院大付高-山梨学院大。00年シドニー五輪200メートル背泳ぎ4位、200メートル個人メドレー8位。04年アテネ五輪出場を逃して引退。09年6月に現役復帰。10年8月のパンパシで日本代表入り。12年ロンドン五輪出場はかなわず現役引退。以降はスポーツコメンテーター、日本水泳連盟理事など多方面で活動。176センチ。

 【パリ五輪競泳 展望】

 ▼自由形

 ともに2大会連続出場となる男子の松元、女子の小堀が決勝進出を見据える。19年世界選手権200メートル銀メダルの松元は、東京五輪予選敗退の無念を晴らす。

 ▼背泳ぎ

 五輪4大会連続出場の入江陵介が現役引退。3月の選考会で競り勝った200メートルの竹原が決勝を目指す。リレーで代表入りの松山も個人にエントリーされた。

 ▼平泳ぎ

 男子200メートルの渡辺、花車はメダル候補。23年世界選手権で史上初の平泳ぎ3冠を成し遂げた覃海洋(中国)を追う。女子の鈴木、青木も自己ベスト更新の先に表彰台が見えてくる。

 ▼バタフライ

 男子200メートルの本多は2月の世界選手権優勝。金メダル獲得を目指すが、世界記録保持者のミラク(ハンガリー)や地元フランスのマルシャンらライバルも多い。女子200メートルの三井は23年世界選手権5位入賞の実力者。100メートルの池江と平井は日本女子2人だけの56秒台を誇り、決勝進出でメダル争いに加わりたい。

 ▼個人メドレー

 世界選手権7大会連続メダリストの瀬戸が、自己記録更新でメダルを目指す。18歳の松下は伸びしろに期待。東京五輪2冠の大橋は大舞台の経験値を生かす。

 ▼リレー

 まずは決勝進出が目標。強豪国に食らいつきたい。