エンジンかEVか、次世代の燃料は? 国内3社の「いろいろな道」

AI要約

自動車メーカーが電気自動車への移行を進める中、トヨタ、スバル、マツダが新たな技術を紹介し、カーボンニュートラル社会の実現を目指す共同記者会見を開催した。

トヨタは低排気量の直列4気筒エンジンと電動ユニットの組み合わせを紹介し、スバルは水平対向エンジンのハイブリッドシステムを発表。一方、マツダはロータリーエンジンの特性と多様な燃料への対応性を強調した。

3社は共同でENEOSスーパー耐久シリーズに参戦し、カーボンニュートラル燃料の実証実験を行い、競争と共創を通じてカーボンニュートラル社会の実現に向けて協力する意向を示した。

エンジンかEVか、次世代の燃料は? 国内3社の「いろいろな道」

100年に一度の大変革と、すこし前に電気自動車へと向かうトレンドを指して、自動車メーカー自身がよく言っていた。おぼえている読者の方も多いのではと思う。

そこにもってきて、直近では、少し軌道修正。カーボンニュートラル(温室効果ガスの実質的な排出量ゼロ)のため、いっきにバッテリー駆動の電気自動車へと向かうのでなく、いろいろ“道”があるんじゃないか、と多くのメーカーが言い出したのだ。

「私が2022年に、エンジン開発は止めるつもりはない、と言ったら、株主から大反発を食らいました。でもいまはどうです? エンジンにもそれなりの役割がある、という意見が説得力も持っていて、私は自分が正しかったと自信を深めました」

私が、2024年春にオンラインでインタビューしたフォルクスワーゲンのトーマス・シェーファーCEOはそう語った。多くのメーカーが、同様のことを言うようになっている。

そんななか、トヨタ自動車、スバル、マツダが、2024年5月28日に3社で共同記者会見を開いた。テーマは題して「マルチパスウェイ」。これも、いろんな行き方がある、ということ。おもしろい内容だった。

東京都内の会場に、上記3社の社長と、技術部門のトップが勢揃い。順番に、エンジンを中心とした自社の“近未来”の技術を紹介。同時に、自動車メーカーが出来るだけ足なみを揃えて、カーボンニュートラル社会を作りだしていきたいとした。

「多様な選択肢を準備して、CO2の排出を確実に減らしていく」としたのは、トヨタの佐藤恒治社長。「電動車の普及に向けて、パワートレーン(動力源になる装置)に求められる新しい価値を追求し、未来のエネルギー環境に寄り添ったものに進化をさせていく」そうだ。

ここで整理しておくと、昨今、世界の自動車メーカーの多くが研究を重ねているパワートレーンはおおむね五つ。エンジン、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、これらは化石燃料を使うエンジンの発展技術。加えて、バッテリー駆動のEVと、水素を燃料にしたパワートレーンがある。

「内燃機関は、おそらく今のままでは、これから先のソリューションにはならないだろうと思います。やはり電動化技術と組み合わせて、内燃機関自体も変わっていかなければいけない。そういう意味では、カーボンニュートラル燃料も同じで、今のガソリンを単純にカーボンニュートラル燃料にしても、やはり内燃機関は生きない。だから、内燃機関も磨いていかなきゃいけない」

スバルの大崎篤社長は記者会見の席上で上記のように語った。じっさい、今回の3社はいずれも、近未来のエンジン技術を公開。

トヨタが見せてくれたのは低排気量の直列4気筒エンジン。電動ユニットとの組み合わせだ。

「小型化を追求するとともに、エンジンと電気、不得意な分野をカバーしあうことができます。モーターは高速回転でパワーが落ちていくぶん、エンジンがそこをカバー。モーターのトルクを利用できる領域ではエンジンは低回転域で力強い走りが得られます」

中嶋裕樹副社長兼CTO(チーフテクニカルオフィサー)は、私(たち)の眼の前で、そのエンジンのプロトタイプを見せてくれた。

1.5リッターのほうはプリウスに搭載してあって、全高が現行エンジンよりだいぶ低い(ボンネットが低くなり低重心にもなるのがメリット)。2リッターは赤いカムカバーがスポーティな雰囲気で、これはこれで妙に気になった。

「カーボンニュートラルの時代に、水平対向エンジンを輝かせ続けるためにも、クルマの電動化技術に、より一層の磨きをかけていきます」としたのはスバルの大崎社長。さらに、同社の藤貫哲郎CTOは、「ブランドを際立たせるために、さらに伸ばしていくべきスバルのアイデンティティ」が水平対向エンジンだとした。

そのためスバルでは、水平対向エンジンのハイブリッドシステムを発表。エンジンの存在感もしっかり感じさせるシリーズパラレル式を採用している。特徴はよりコンパクト化にあると藤貫CTOは強調。そのうえで、トヨタとマツダ(さらに出光、エネオス、三菱重工業)と協力して、カーボンニュートラル燃料の開発に力を入れるとした。

マツダの毛籠勝弘社長は、「マツダの代名詞ともいえるエンジン」としてロータリーエンジンに言及。かつては、燃費の悪さが指摘されていて、RX8(2012年に生産終了)を最後に、メインのパワープラントとして使われていなかった。いっぽうで、「小型・軽量・高出力で、その構造の特性上、燃料に対する雑食性があるという特徴を持っています」と毛籠社長は指摘。

雑食性とは、多様な燃料に適応できること。バイオエタノール、バイオ軽油、廃食油利用のHVO、藻類バイオ燃料、e-fuel、メタン、そして水素と、やはり雑食性のディーゼルエンジンの上をいき、いま考えられているたいていのカーボンニュートラル燃料に対応する、とマツダの廣瀬一郎CTOは述べた。

日本には乗用車メーカーだけでも8社あり、残りの5社はどうなの?という質問が、記者会見で出た。そもそも、今回の3社は「ENEOSスーパー耐久シリーズ」なるレースで「ST-Q」カテゴリーに参戦し、カーボンニュートラル燃料の実証実験を行っている。

「競争と共創」と、トヨタの佐藤社長は、志を同じくするメーカー間の関係を表現。さらに、今後、ほかのメーカー(上記レースには日産自動車とホンダも参戦中)とも価値観を共有していきたいというのが、スバルの大崎社長とマツダの毛籠社長とも共通する思いだということだった。

【写真提供】トヨタ自動車

■著者プロフィール

小川フミオ

モータージャーナリスト

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。