今も続く面会禁止、病院が楽だから? 老いた父看取れなかった怒り

AI要約

新型コロナが感染症法の5類に移行して1年以上が経過し、日常生活はほぼコロナ禍前に戻ったが、病院の面会規則が未だに戻らず、患者の家族は不満を抱いている。

米国在住の鈴木智草さんの父親が病院で亡くなった際、面会制限により家族に看取られず、家族の会わせたい気持ちを叶えることができなかった。

病院ごとの面会規則の差や感染管理の意識、患者と家族の距離をどれだけ置くかという病院の判断基準の違いが問題となっている。

今も続く面会禁止、病院が楽だから? 老いた父看取れなかった怒り

 新型コロナが感染症法の5類に移行してから1年以上が経った。日常生活はほぼコロナ禍前に戻ったが、病院の面会規則については、いまも戻らないところが少なくない。入院患者の家族は「おかしい」と訴える。

 米国に在住する鈴木智草さんの父親(享年84歳)は今年2月3日、家族の誰にも看取(みと)られず、東京都内の病室で息を引き取った。

 父親は通っていたデイケアでのけがをきっかけに昨年8月、都内のA病院に入院した。面会は予約制で、週1回、1回につき15分という規則だった。

 何とか仕事を調整した鈴木さんは、10月に9日間だけ帰国した。病院の規則から言えば、その間に最大2回、計30分しか父親に会えない。事情を説明したが、余分の面会は認められなかった。

 その後、父親はB病院に転院した。この病院は「原則面会禁止」を掲げていた。

 病状説明のための医師との面会予約が入った今年1月18日、鈴木さんは急きょ帰国した。「せめて父に一目会いたい」と訴えたが認められず、米国に戻った。

 その後、父親の容体が悪化し、再び2月3日に帰国した。空港から病院に直行する予定だったが「面会は認められない」と断られ、実家に向かった。ところがその2時間後、病院から「あと5分か10分ぐらいしか持たない」と連絡が入り、タクシーで病院に向かった。病室に到着する10分前、父親は息を引き取った。

 「患者と家族にこれほどの距離を置かせる規則はおかしくないでしょうか」と鈴木さんは憤る。

 厚生労働省は昨年10月、医療機関に「面会の重要性と院内感染対策の両方に留意し、患者及び面会者の交流の機会を可能な範囲で確保するよう」検討して欲しいと求めた。ただ強制力はないため、各病院の対応はまちまちだ。

 東京都内に14カ所ある都立病院も、「午後2~4時の間に1回15分まで」という病院から、「午前8時~午後8時半 面会制限なし」という病院まで、対応は大きく異なる。

 地方独立行政法人東京都立病院機構推進課は「各病院ごとに得意とする分野や診ている患者が異なる上、病室の広さなど設備も異なる。安全が確保できるかどうかを基準に、病院の実情に応じて決めている」と説明する。

 認定NPO法人「ささえあい医療人権センターCOML」理事長の山口育子さんによると、病院の方針は、感染管理を担当する責任者の意識によりかなり異なるという。また病院にとっては、コロナ禍に患者の家族ら「外の目」が入らないことの気楽さを実感したことも、面会制限が続く一因となっているのではないかと推測する。(編集委員・岡崎明子)