水星の内部には厚さ10km超のダイヤモンドに富む層があるかもしれない

AI要約

水星の内部には、ダイヤモンドに富んだ層が存在する可能性が示唆されている。

水星は他の岩石惑星と異なる内部構造を持ち、固有の磁場や炭素の存在が注目されている。

水星は探査の難易度が高い惑星であり、過去の探査から黒鉛が豊富に含まれていることがわかっている。

水星の内部には厚さ10km超のダイヤモンドに富む層があるかもしれない

太陽系の最も内側を公転する惑星「水星」には、表面に炭素が豊富にあることが分かっています。水星の内部にも豊富に炭素が含まれているという予測もありましたが、これまでは水星の内部で炭素がダイヤモンドの結晶となることはないと考えられていました。

北京高圧科学研究センターのYongjiang Xu氏などの研究チームは、実験と計算シミュレーションから、水星の内部構造を推定しました。その結果、水星のマントルと核の間には、厚さが約14.9~18.3kmに達する、ダイヤモンドに富んだ層がある可能性を示しました。これは、水星の内部ではダイヤモンドが結晶化しないという従来の考えを否定するとともに、水星の謎の1つである固有の磁場の生成にも関係しているかもしれないという点で興味深いです。

太陽系の最も内側を公転し、最も小さな惑星でもある「水星」は、いくつかの点で興味深い惑星です。惑星の主成分がケイ酸塩と金属鉄という組み合わせであることは、地球を始めとした他の岩石惑星と似ていますが、金属鉄でできた核の直径が大きいため、惑星自体の大きさに対する核の比率が高いと推定されています。また水星は弱いながらも観測可能な固有の磁場を持っています。これらは、水星が月より一回り大きい程度の直径・質量であることを考えると、説明の難しい性質です。

水星は、探査の難易度が高い惑星としても知られています。水星の公転軌道付近には強烈な放射と重力をもたらす太陽があること、その一方で水星自体の重力が弱く、探査機を送るのが困難なためです。これまでに接近観測に成功した探査機は、いずれもアメリカ航空宇宙局(NASA)が打ち上げた「マリナー10号」(1973年)と「メッセンジャー」(2011年~2015年)のみです。

特に、長期間観測を行ったメッセンジャーは、水星に関する興味深い観測データをもたらしました。その1つは、水星の表面に「黒鉛(グラファイト)」に分類される炭素の単体が豊富に含まれていることです。黒鉛は文字通り黒っぽい色をしているため、水星の表面が暗い理由にもなっていますが、何より大量に含まれていること自体が予想外でした。

黒鉛は密度が低く、化学的に安定な物質です。このため水星表面の黒鉛の由来は、水星の誕生時、全体が融けた状態であるマグマオーシャンの時代に浮き上がってきた炭素がそのまま残されたものではないか、と推定されています。黒鉛の存在量は地殻の1重量%未満という量であることから、炭素が全て地殻に浮き上がってきたわけではなく、現在でも大量にマントルに残されていると推定されています。

ただし、これまでの水星の内部構造に関する理解では、マントルと核の境目である「核マントル境界 (Core-Mantle Boundary)」でも、温度や圧力がダイヤモンドを生み出すための条件を満たさないと予測されてきました。このためマントルに含まれる炭素も、ダイヤモンドではなく黒鉛であると予測されてきました。