月が本当に人間に影響を与えている可能性、長年の否定論を変えつつある最近の驚きの証拠
満月が人間や動物の睡眠パターンに影響を与える可能性があるという最近の研究結果が示唆されている。
満月前後に睡眠時間が短くなる傾向があり、新月の時期にも同様の傾向が見られる。
月の引力による影響がある可能性もあるが、実際にはどのようなメカニズムで影響を受けているのかはまだ不明である。
太古の昔から、世界中の人々は、満月が心と体に変化をもたらし、われわれをより暴力的にしたり、奇妙な行動をとらせたりすると信じてきた。研究者らは長い間、そうした主張を否定してきたが、最近の研究では、月のサイクルが一部の人々にかすかな影響を与えることが示唆されている。とりわけ、睡眠、女性の月経周期、双極性障害の人の気分の変動といった、周期的な現象においてだ。
月の周期の影響を受ける動物はいる。海では、月は潮の満ち引きだけでなく、そこで暮らす生物にも影響を及ぼす。多くのサンゴや多毛類(ゴカイなど)、ウニ、軟体動物、カニが満月の前後に産卵するのは、光の増加によるものだと考えられている。
人間にも月のサイクルが影響するのかについては、研究者たちは長らく否定的であり、影響が「ある」か「ない」かで互いに矛盾する多くの研究結果が発表されてきた。実際、殺人や外傷センターへの入院、精神科への入院については、満月の前後での増加は見られないとする大規模な研究がある。
しかし、最近の研究により、潮目が変わりつつある。
近年の発見は、月がわれわれに影響を与えることはないという長年の認識に疑問を投げかけるのに十分であり、月が人間の体や心にどのように影響しているのかを調査する必要があると、オーストリア、ウィーン大学の時間生物学者クリスティン・テスマール・ライブレ氏は述べている。
「これはデータですから、われわれは科学者としてそれを理解し、説明するよう努めなければなりません」
米シアトルにあるワシントン大学の睡眠研究者、オラシオ・デ・ラ・イグレシア氏は、2021年1月に学術誌「Science Advances」に発表した研究の結果に驚かされたという。
デ・ラ・イグレシア氏らのチームは、活動をモニターする腕時計型センサーを使って、2つの非常に異なる集団の睡眠パターンを、1週間から2カ月にわたって追跡した。ひとつ目のグループは、アルゼンチンの先住民トバ族(コム族)のコミュニティーに属する約100人であり、多くは電気がない、または室内灯はあるが街灯はない環境で暮らしている。ふたつ目のグループは、ワシントン大学の学部生数百人だ。
先住民の参加者は、満月前の数日間には、平均で約20分遅く眠りにつき、全体の睡眠時間も短くなった。しかし、デ・ラ・イグレシア氏にとって予想外だったのは、シアトルの学生たちの多くも、満月の前には睡眠時間が減っていたことだ。シアトルは大都市であり、人工的な光が月明かりをかき消し、学生たちは満月がいつなのかさえ知らない場合が多い。
「これには非常に驚かされました」と氏は言う。古代の狩猟採集民はおそらく、月の周期を感知して、満月前の夜には警戒心を高めて活動的でいられるように、われわれのまだ知らない何らかの方法を進化させたのだろうと氏は考えている。満月の頃は夜の前半が比較的明るく、資源を手に入れたり、社会的な活動をしたりできるからだ。
もうひとつの予想外の結果は、どちらのグループでも被験者の多くが、一般には月が見えなくなる新月の前後にも、睡眠時間が短くなったことだ。
これには明らかに、月明かり以上の何かが関係している。デ・ラ・イグレシア氏の仮説は、満月と新月の時期に最も強さが増す潮汐力が、睡眠パターンに影響している可能性がある、というものだ。これらの時期には、太陽、地球、月が一直線に並び、地球の両側にかかる引力と慣性力が最大になる。
しかし今のところ、人間やその他の動物が、そうしたかすかな引力の変化を感じられるという証拠はないと、テスマール・ライブレ氏は言う。
月の周期を認識する海洋生物のイソツルヒゲゴカイ(Platynereis dumerilii)については、これまで非常に詳しく研究されてきたが、彼らが感じ取っているのは引力ではなく、月の光の持続時間だ。
一方、米国立精神衛生研究所(NIMH)の名誉科学者で精神科医のトーマス・ウェアー氏は、どのような感覚を使っているのかはわからないものの、人間が引力の変化や、引力が地球の磁場に及ぼす影響などを感じられてもおかしくないと考えている。「生物が物理的な力にどのように反応するかについては、まだわからないことがたくさんあります」と氏は言う。