うつ病の脳の6つのタイプを特定、症状や効く治療法も異なる、画像による正確な診断に光

AI要約

うつ病を患っている多くの人が適切な診断を受けずに治療を受けており、効果が出ずに失望している。スタンフォード大学の研究チームは患者の脳画像を用いてうつ病の6つの生物学的な分類を特定し、標的を絞った治療を目指している。

研究では、脳の特定の回路に障害があることで異なる症状が現れることが明らかにされた。例えば、デフォルトモード回路の障害ではマインドワンダリングが増え、ポジティブ感情回路の障害では楽しみを感じにくくなる。

個々の患者に合った最適な医療を実現するために、生物学的な検査を用いた正確な診断が必要であると指摘されている。

うつ病の脳の6つのタイプを特定、症状や効く治療法も異なる、画像による正確な診断に光

 うつ病を患っている人の多くは適切な診断を受けておらず、手探りの治療を受けている。うつ病と診断された人の約30%が、複数の治療を受けても症状が改善していないという推定もある。このような状況では治療は高くつき、効率が悪く、患者を失望させ、ときに有害でさえある。

 米スタンフォード大学医学部の精神医学・行動科学教授であるリアン・ウィリアムズ氏の研究チームは、うつ病のタイプごとの生物学的な指標(バイオマーカー)を特定することで、このような状況を変え、標的を絞った治療を行えるようにすることを目指している。氏らは2024年6月17日付けで医学誌「Nature Medicine」に論文を発表し、機械学習と患者の脳画像に基づき、うつ病の6つの生物学的な分類(バイオタイプ)を特定したと報告した。

「ほかの医療分野とは違い、現在の精神医学は自己申告による症状に頼っており、患者の診断や治療に生物学的な検査を用いていません」と、ウィリアムズ氏はこの研究の意義について説明する。「個人に最適化された医療を可能にするには、症状の生物学的な土台に基づく正確な診断ができる検査が必要です」

 スタンフォード大学のチームは、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)の技術を用いて、うつ病と関連づけられることが多い扁桃体、視床下部、海馬、前頭前皮質(前頭前野)などの脳領域と、これらの間の結びつき(回路)を調べた。

 うつ病の症状としては、注意が続く時間やワーキングメモリー、認知の柔軟性、意欲が下がる、計画と意思決定が難しい、ぐるぐる思考が止まらない、ポジティブまたはネガティブな感情に関わるホルモンの変化などが知られている。脳のどの回路の機能に障害が起こるかによって、これらの症状のうちのどれが引き起こされるかが異なる。

 ウィリアムズ氏らは、すでにうつ病または不安症と診断されている801人の参加者の脳をスキャンし、安静時と課題に取り組んでいるときの脳の活動を調べることによって、うつ病が6つのバイオタイプに分けられることを明らかにした。それぞれのバイオタイプは、以下の6つの主要な脳の回路のどれで機能不全が起きているかで特徴づけられる。

1)デフォルトモード回路:マインドワンダリング(現在の課題とは無関係なことを考えている状態、心のさまよい)や内省といった内的な精神プロセスに伴って活性化する回路。

2)顕著性回路:自分の内と外の重要な感情の刺激に集中するのを助ける回路。この回路の障害は、不安症の身体症状や、感覚に負荷がかかり過ぎた状態を引き起こす。

3)ポジティブ感情回路:喜び、報酬、社会的な楽しみ、やる気、目的意識にとって重要な回路。この回路に障害があると、感情が麻痺し、楽しみを感じにくくなる。

4)ネガティブ感情回路:脅威や悲しみといった感情の処理と反応にとって重要な回路。この回路に障害があると、ネガティブな感情に対する反応が、より強く、より長くなる。

5)注意回路:注意と集中の持続に関わる回路。

6)認知制御回路:思考や行動の制御とともに、ワーキングメモリーや計画などの実行機能(複雑な課題をやり遂げるための機能)を支える回路。この回路に障害があると、意思決定や先の計画を立てることが難しくなる。