機能性表示食品、「根拠」に社員の論文のケース 特定専門誌に偏りも

AI要約

機能性表示食品に関する根拠とされる論文の透明性や信頼性に疑問が浮上し、企業内部での論文執筆にも疑念が投げかけられている。

研究によると、機能性表示食品を支持する論文の大部分が偏った結果を強調しており、専門誌に掲載された論文も問題が指摘されている。

業界では会社所属の研究者が自社製品に関連する論文を執筆することの中立性への疑念も広がっており、消費者庁も問題を認識している。

機能性表示食品、「根拠」に社員の論文のケース 特定専門誌に偏りも

 国の審査を経ずに効果をうたって販売できる「機能性表示食品」で、企業が「根拠」としている論文の透明性や信頼性に疑問を示す専門家の声が相次いでいる。社員が論文を書いていることへの疑問も出ている。

 機能性表示食品は「体脂肪が減る」といった健康上の効果をうたうが、国の審査は必要なく、企業側が「自己責任」で効果の根拠を示して届け出れば販売できる。

 京都大のグループは2月、機能性表示食品の根拠とされた論文32本を調べ、うち7割が「(機能性食品の)有利な結果ばかりを強調している」と指摘する論文を発表した。32本の論文のうち18本が同じ医療専門誌に掲載され、このうち問題が指摘されたものは17本あった。

 朝日新聞は、消費者庁のデータベースにある約8千件の届け出情報から、各製品が効果の根拠としている「採用文献リスト」を独自に調べた。リストが見つかった7389件の届け出のうち、この専門誌に載った論文を採用しているものが少なくとも3942件(53%)あった。

 学術誌によっては投稿から掲載まで年単位におよぶことも珍しくないなか、同誌は論文投稿から2~3カ月での掲載をうたっている。食品のリスク問題に詳しい唐木英明・東京大名誉教授(薬理学、毒性学)は「論文をすぐに載せたい企業の求めに専門誌側が応じる関係になっているようだ。制度を作った消費者庁も予測しなかった事態だろう」と指摘する。

 この専門誌の出版社は朝日新聞の取材に対し、不備がある論文が掲載されているという指摘を「真摯に受け止め」るとし、審査担当者の人数を増やすなどの対策をとっていると答えた。

 小林製薬(大阪市)でも、この専門誌に載った論文を、健康被害を出した「紅麴」サプリメントを含む製品の届け出の根拠にしていた。

 メーカーに所属する研究者が論文を書くことの問題点も指摘されている。唐木名誉教授は「会社勤めの研究者が自社製品にかかわる論文を書けば、中立性が損なわれる恐れがある。内容の審査はよりいっそう厳しく行われるべきだが、そうなっていないのが問題だ」と指摘する。「紅麴」サプリの根拠論文の著者も小林製薬の社員だった。

 消費者庁の新井ゆたか長官は会見で、機能性の根拠となる論文について質が低いと指摘する専門家もいると問われると、「論文を書く方が、責任を持って書いていただくのが基本だと思っている」と答えた。(小宮山亮磨、野中良祐)