人工赤血球製剤で離島やへき地も救え 奈良県立医大病院が治験を本格化へ

AI要約

奈良県立医科大学附属病院が人工赤血球製剤の治験を開始し、リユースした輸血用赤血球から製造に成功したことが紹介されている。

研究チームは血液型を問わず室温で2年間保存できる製剤を開発し、適用が可能ならば離島・へき地や大規模自然災害時に役立つ可能性がある。

海外では一酸化窒素との副作用が報告される中、独自技術を活かした製剤開発に成功したという。

人工赤血球製剤で離島やへき地も救え 奈良県立医大病院が治験を本格化へ

 ヒトへの投与や備蓄が可能な人工赤血球製剤の治験に奈良県立医科大学附属病院(奈良県橿原市)が取り組む。献血での使用期限が切れた輸血用赤血球を「リユース」し、加工することで量産化に成功した。来年から治験を本格化させ、2030年の保険適用を目指す。血液型を問わず室温で2年間保存できるため、実用化できれば、離島・へき地での製剤保存や医療、大規模自然災害時などでの活用が想定できるという。

 人工赤血球製剤の製造研究は国内外で半世紀以上取り組まれてきたが、安定して大量に、かつ副作用が少ないものがなかなかできずにいた。奈良県立医科大学血液内科学講座の松本雅則教授(血液学・輸血学)らのグループは、日本赤十字社(日赤)が行う献血で得られる輸血用赤血球製剤の使用期間が28日間しかないことから、これを基に長期間保存できる人工製剤を作れないかと考えた。

 日赤から廃棄赤血球を提供してもらい、同大医学部化学教室の酒井宏水教授(医工学・生体高分子化学)が4種類の脂質で血液中の酸素を運ぶヘモグロビンを覆うことで人工赤血球製剤を作ることに成功した。この脂質にはレシチンなどが含まれており、ヘモグロビンの酸化や沈殿を防いだり、安定化したりする性質を持つ。酒井教授は「ヘモグロビンに化学的修飾を施すのは、これまで無理とされていたが、被覆がうまくいった」と振り返る。

 さらに、血液型は赤血球の膜に存在する抗原の型によって決まるが、脂質によって包まれた今回の赤血球製剤は、どんな血液型にも使えるという利点がある。そのため、赤血球製剤投与前に血液型を調べる検査工程を省略できる。直径5ナノメートル(ナノは10億分の1)のヘモグロビンを脂質で覆うと250ナノメートルになる。このサイズであれば、血管中で適度に分散し、沈殿しないことも確認できた。

 人工赤血球製剤の海外での研究目的は、テロ等の通常ではまかなえない大量の輸血需要に対応するためでもある。しかし、例えば米国で作られた製剤は、ヒトの血管の内皮細胞から出ている一酸化窒素がヘモグロビンそのものと結合してしまい、強い血管収縮によって酸素が運搬されなくなるという重大な副作用があり、ヒトには使えなかった。