ゴミ屋敷から1億6千万円 増加する老老相続の悲劇

AI要約

都内で老舗の和菓子店を経営していた女性が亡くなり、遺産が妹に相続されるが、意外なほどの金額が明らかになり驚きが広がる。

姉は長年貧しい生活を送りながら、実は1億5千万円もの金融資産を持っており、妹に遺産が渡ることになる。しかし、それよりも妹は姉の貧乏なふりを理解できず、複雑な気持ちになる。

高齢者による「老老相続」が増加し、老後の資金をため込みすぎる傾向がある中、資産を使い切ることの大切さが強調されている。

ゴミ屋敷から1億6千万円 増加する老老相続の悲劇

 都内で老舗の和菓子店を経営していた女性が昨年秋、83歳で亡くなった。

 独身で両親の跡を継いだが、体調を崩して10年前に店を閉めた。その後は入退院を繰り返し、店舗兼住宅はゴミ屋敷のように荒れていった。

 女性には3歳下の妹がいた。妹からみると、女性はあんパン1個で昼食を済ませることもあり、貧しい年金暮らしをしているように見えた。気の毒に思った妹は、姉を自宅に招いて食事をごちそうしたり、病院までのタクシー代などを援助したりしていた。

 女性は生前に遺言を書き、全財産を妹に相続させると記していた。全財産といっても、相続税評価で1500万円ほどの店舗兼住宅と、約300万円の預金だけだと、妹は説明を受けていた。

 ところが、女性が亡くなって自宅の遺品の整理をしてみると、たくさんの通帳や証券会社からの通知書が出てきた。預金や株など金融資産だけで約1億5千万円も残っていた。

 妹には計1億6500万円の遺産が渡ることになるが、その喜びよりも、悲しい気持ちのほうが大きかったという。

 「姉はこんなにお金があるのに、なぜもっと使わなかったのか。貧乏なふりをしてなぜ、私にお金をせびったのか」

 妹には夫や子どもがおり、金銭的にはカツカツの生活をしながら姉を長年、支えた。

 「80歳近くなって大金をもらっても……」

 女性の遺言執行者を務めた辻千晶弁護士は「自分の財産がいくらあるのか把握できていなかった。これから老後の資金としていくら必要かもわからず、お金をためるばかりだった」と語る。

 老後にお金をため込み、亡くなった時は遺産を受け取る側も高齢者になっている「老老相続」化がとまらない。

 財務省主税局の調べによると、80歳以上の高齢者が被相続人となった相続は1989年では38.9%だったが、2019年では71.6%と7割を超えた。

 日本銀行の資金循環統計によると、国内で個人が保有する金融資産は2141兆円(23年12月末の時点)となり、過去最高を更新した。その6割以上を60歳以上が保有している。

 「老後資金を3千万円ほど残し、年金と足せば、生活は十分できる。できるだけお金を使った方がいい」と辻弁護士はアドバイスしている。(森下香枝)