結婚をめぐる「つながり」と「反発」の力は社会構造に影響していた…数理モデルでレヴィ=ストロースの謎を解く

AI要約

文化人類学における普遍的な構造を説明

結婚規則に関する異なる文化の共通点

クランと親族関係についてのクロード・レヴィ=ストロースの考察

結婚をめぐる「つながり」と「反発」の力は社会構造に影響していた…数理モデルでレヴィ=ストロースの謎を解く

遠い地域の文化がなぜ似ているのか、これは文化人類学における一つの究極的な謎である。百年以上にわたり、文化人類学者たちは諸地域の文化を記述し、それらの間に構造的なパターンを見出してきた。本連載では、数理モデルのシミュレーションによって、文化を生む仕組みを調べることで、人間文化に普遍的な構造がどのような条件下で、いかにして生まれるのかを探求する普遍人類学の試みを紹介する。

「太陽の子孫は月の子孫と結婚せねばならない」

このような形で人々の結婚可能性を定める規則は多くの社会に見られる。特に、社会が二つの集団に分類されていて、自分とは逆の集団に属する人とのみ結婚を認める規則はインドネシアのスマトラ島、ポリネシアのタヒチ島、北米先住民の社会などに共通する。

アフリカのヌエル族の神話には「(天井から降りてきた男ガウの二人の息子ガーとクオークのそれぞれの子孫からなる集団について)二つの集団の間でなら結婚して良いが、しかしどちらの集団も自集団の中での結婚をしてはならぬ」という記述がある。

社会をいくつかの集団に分割し、その間に結婚可能性を定める規則を持つ文化は、多くの時代と地域の社会に見られるものであるが、なぜこんなにもよく似た文化が見られるのであろうか。本稿では、まず文化人類学で見出された親族関係についての普遍的な構造のパターンを紹介し、数理モデルのシミュレーションにより、それらの構造を生む仕組みについて考察する。

「太陽の子孫」や「(神話上の登場人物)ガーの子孫」のような(想像上の)共通祖先の存在に基づく文化的集団のことをクランと呼ぶ。クランの構成員には必ずしも血のつながりはないのだが、「分類上の兄弟姉妹」という同胞意識によってつながっている。血のつながりはなくとも、意識の上では兄弟姉妹なので、同じクランの相手とは日々の生活の中で協力はするが、恋仲になってはならない。

文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロースは『親族の基本構造』の中で、諸地域の親族関係を、社会内にいくつのクランがあるか、それぞれのクランがどのクランを配偶者として選好しているかに注目して比較した。

ここでは彼の記法に従い、クランをA、 B、 Cなどとかき、クランAの男性がクランBの女性と結婚せねばならない婚姻の規則をA→Bとかく。

すると、社会に二つのクランがあって反対のクランの人と結婚する構造はA↔︎Bと表され、これを双分組織という。

また、社会に三つ以上のクランがあって婚姻の関係が輪をなす構造はA→B→C→Aと表され、一般交換という。こうしたクラン間の婚姻関係がなす構造を親族構造と呼ぶ。そして彼はこれらの構造のレベルで見れば、諸地域の多様な文化がわずかな数のパターンに還元されることを示した。

初めに述べた太陽の子孫と月の子孫が結婚せねばならないという規則は双分組織である。他にも、「火の属性を持つ男性が水の女性と結婚したならば家庭はうまくいくが、木の女性と結婚したならば大惨事になる」という信念のもと、火の男性は水の女性と、水の男性は土の女性と結婚する規則もあり、これが一般交換である。