異形、微小…ほんとうにマニアックな甲虫の世界(野村周平/甲虫研究者)

AI要約

甲虫は昆虫綱コウチュウ目の中でも最大の目で、世界中には35万種以上の種が存在する。

無名の甲虫でも信じられないほどおもしろい形態を持つものが多く存在し、アリヅカムシやコガネムシなどはその一例である。

特にシロアリマグソコガネやマンマルコガネなどは変わった形をしており、研究者たちから注目されている。

異形、微小…ほんとうにマニアックな甲虫の世界(野村周平/甲虫研究者)

 甲虫、すなわち昆虫綱コウチュウ目の昆虫は、全昆虫の約3分の1を占める昆虫界最大の目(もく)で、世界中で35万種以上が知られている。日本からは約1万種が知られ、おもにカブトムシ、クワガタムシ、テントウムシ、ホタル、カミキリムシ、ゾウムシなどがよく知られている。ここでは、他ではめったに紹介されることのない、マニアックな甲虫世界の一端をご紹介したい。

 昆虫の世界にも、「有名」と「無名」の区別は歴然としてある。誰もが名前を知っているヘラクレスオオカブトムシやヤンバルテナガコガネなどは押しも押されもせぬ有名昆虫であるが、その対極にあるのは、無名の虫ということになる。しかし無名ならばつまらない虫かというと、決してそうではない。あまたの無名の虫の中には、信じられないほどおもしろい虫たちが、無名なりに燦然(さんぜん)と光り輝いている。ここではそんな粒よりの「いぶし銀」の虫たちを紹介しよう。

 筆者が専門に研究しているアリヅカムシ(ハネカクシ科アリヅカムシ亜科)は、最大でも体長5ミリほどだがその形態は変化に富んでおり、キリンのように首が伸びたキリンアリヅカムシ(Awas属―図4①)や熱帯アジアに産するウサミミアリヅカムシ(Colilodion属―図4③)はとても人間の想像力がおよばないような驚異の形態をそなえている。ダルマアリヅカムシ属(図1②)の触角は短く、先端が極端に肥大して、オスではカップ型になった種もある。同じハネカクシ科のコケムシ亜科にも不思議な形態をもつ種が多く、最大種を含むClidicus属には、クモのように手足が長いもの(C. taphrocephalus―図4④)もあれば、頭部が巨大化したもの(C. mendax―図4⑤)もある。

 今回の「昆虫 MANIAC」展で特に取り上げたのは、動物の糞に集まるコガネムシ(糞虫)の中でも特に変わった形をした、シロアリの巣に居候するマグソコガネと、アツバコガネ科の一群であるマンマルコガネのなかまである。

 シロアリの巣の中から見つかるシロアリマグソコガネ Termototrox属(図4⑥~⑨)は、マグソコガネとしても微小でしかも極めて変わった形をしている。カンボジアで見つかったT. cupidoという極小の種(図4⑦)は、前ばねの付け根に天使のはねのような金色の房毛を持つ。シロアリの巣に同居(居候)する種を多く含むシロアリカクマグソコガネ族の種(図4⑩、⑪)は、その茶色で四角い姿から、NHKのキャラクターになぞらえて、研究者間では「どーもくん」と呼ばれている。熱帯アジアなどに産するが、どの種も珍しく、なかなかお目にかかる機会はない。

 マンマルコガネは世界じゅうの熱帯地域からたくさんの種が知られており、虹色に輝く種や赤と黒の模様がある種も含まれる。日本からも2種、トカラマンマルコガネとサキシママンマルコガネ(図1⑬)が知られており、どちらも黒色でダンゴムシのように丸くなることができる(図1⑫参照)。このなかまはシロアリが食べつくした朽ち木の廃巣などに発生する。