性染色体の「Y」が男性からなくなると心不全死のリスクが1.8倍増加に…生物学の最新研究からわかった疾患リスクとは

AI要約

男性のY染色体が消失する現象である「モザイクY染色体喪失」についての最新研究が進行中であり、加齢だけでなく胎児期から80-90代までの男性に影響があることが明らかになっている。

喫煙などの環境要因がY染色体の喪失頻度を増加させる可能性も指摘されており、細胞に直接的な影響があると考えられる。

この現象は男性の老化現象として認識されていたが、最新研究により、幅広い年代でY染色体の消失が確認されている。

性染色体の「Y」が男性からなくなると心不全死のリスクが1.8倍増加に…生物学の最新研究からわかった疾患リスクとは

性別の決定に関わる情報を持つ性染色体にはX型とY型の2種類があり、「XY」のペアで男性、「XX」で女性になる。しかし、最新の研究では男性だけが持つ「Y」染色体が消失しつつあるのだという。もし完全に失くなったら、いったいどうなってしまうのか。

『「Y」の悲劇 男たちが直面するY染色体消滅の真実』(朝日新聞出版)より、一部抜粋、再構成してお届けする。

最近の研究から、ヒトの進化といった大きなスケールではなく、実際に男性の身体中の細胞から、すでにY染色体が消失し始めていることがわかっています。

一般的な男性の細胞の中には、X染色体1本とY染色体1本を含む、合計46本の染色体が存在しているはずです。

しかし、これらの細胞からY染色体が失われ、性染色体がX染色体1本のみの45本となる現象があり、「モザイクY染色体喪失」とよばれています(図2-4)。

この現象について、国内では、国立成育医療研究センターの深見真紀博士らの研究グループにより、精力的に臨床研究が進められています。

「モザイクY染色体喪失」は、もともとは男性の老化現象のひとつと考えられていました。

若い頃の細胞はY染色体を保持していますが、加齢とともにY染色体が抜け落ちていき、70歳以上の一般男性のうちの1割以上は、Y染色体が消失した細胞をもつ、といわれています。

血液中の細胞を調べた研究報告では、70代の男性ではおよそ30%の血液細胞でY染色体が失われているのに対し、80代の男性だと約50%、80-90代だと約90%にもなり、ほとんどの細胞でY染色体が失われていることがわかっています。

 この現象が発見された当初は、高齢男性に限った現象であると考えられていました。しかし、研究が進むにつれ、そうではないということがわかってきたのです。

深見博士らの研究グループは、モザイクY染色体喪失が胎児期や小児期、青年期など、様々な年代でも起きていることを報告しています。

また、喫煙によりY染色体の喪失頻度が増加することも知られており、何らかの環境要因が直接的に細胞に影響してY染色体が失われるのではないか、とも考えられています。