林野庁長官賞を受賞 三重・大台町の細渕さん、81歳 森林の保全、整備取り組む

AI要約

林業経営推奨行事で三重県の細渕芳弘さんが林野庁長官賞を受賞。細渕林業は江戸時代から続く歴史を持つ。

芳弘さんは森林保全を重視し、次世代に林業の重要性を伝える活動にも取り組んでいる。

森林環境教育や木育活動にも積極的に参加し、未来の林業への希望を持たせるために努力している。

林野庁長官賞を受賞 三重・大台町の細渕さん、81歳 森林の保全、整備取り組む

 森林の適正管理や林業の技術・経営改善などに貢献した森林管理経営者や団体を表彰する本年度の「全国林業経営推奨行事」(公益社団法人大日本山林会主催)の林野庁長官賞に、三重県多気郡大台町岩井で江戸時代から続く細渕林業の14代目・細渕芳弘さん(81)が県内で唯一、選ばれた。細渕さんは「森林は素晴らしい生命力を持っている。林業の仕事を誇りに思えるよう、子供たちにも伝えていきたい」と語る。

 全国林業経営推奨行事は1962(昭和37)年に第1回が開催され、63回目を迎える。3ヘクタール以上の森林を管理・経営し、地域貢献している個人や団体などが対象で、各都道府県が推薦し、審査の結果▶農林水産大臣賞▶林野庁長官賞▶大日本山林会会長賞──の3部門で表彰する。今年度の林野庁長官賞は、細渕さんの他に、北海道、長野県、岡山県、佐賀県など15の団体や個人が表彰を受けた。

 細渕林業は、江戸時代初期の1600年代に創業。管理する321.8ヘクタールの森林には、樹齢約400年の杉もある。細渕さんの祖父・半次郎さんは、私費を投じて岩井の集落の宮川に橋を架けたことでも知られ、その橋は今も「半次郎橋」と名付けられている。明治時代は約150人の従業員を抱え、伐採した木材をいかだに組んで宮川を下り、伊勢市まで運んでいたという。父・芳二郎さんの代にはトラックで木材を運ぶようになり、運送業も営むようになった。

 芳弘さんは私立海星高校(四日市市)を卒業後、同東京農業大学に入学。卒業後は東京大学森林経理学研究室の研究生として2年間在籍し、24歳で実家に戻り、家業を継いだ。12人ほどの従業員を雇用しながら森林整備を進め、30年ほど前に広葉樹をヒノキやスギの針葉樹に植え替える拡大造林を行った。

 しかし、木材価格は1980(昭和55)年を境に下落に転じ、最盛期は1ヘクタール当たり2300万円だったのが、100万円以下に下がっているという。現在は1人で、森林保全を目的に間伐を行っているが、8トントラックいっぱいに積んでも売り上げは5、6万円。「日当も出ないくらい。山に手を掛けるほど赤字になるので、山を放棄せざるを得ない」と現状を語る。

 また次世代に林業の大切さを伝えようと、地元の町立宮川小学校(茂原)の高学年に向けて講義をしたり、県の森林環境教育・木育活動を担う「森のせんせい」に登録もして、出前授業にも取り組む。

 県の2022(令和4)年度の「森林・林業統計書」によると、同町の森林率は93%と県内でもトップの豊かな森を有する。林業就業者は町内81人で、うち33人が60歳以上だ。

 芳弘さんは森林の役割について「森林が光合成をしてつくり出した養分が宮川を流れ、伊勢まで到達して豊かな漁場をつくる。自然の循環にはなくてはならない存在。林業は森を育て、その循環を手助けする」と話す。

 「児童に林業のことを話すと『僕も木こりになる』と目を輝かせる」と、うれしそうにほほ笑む。「子供たちが未来に希望を持ち、誇りを持って林業に携われるよう森林を育てていきたい。国にも施策として真剣に考えてほしい」と強調した。