「負の連鎖」断ち切りたい―― 父から虐待受けた女性、挫折を乗り越えてフリー保育士に 苦しむ人の希望を照らす #令和の親

AI要約

長崎市内の公園で活動するフリーランス保育士の西有希さんは、自身の虐待体験に基づいて親子間の負の連鎖を断ち切るために尽力している。

西さんは幼少期から父親からの暴力や母親のDVを経験し、家庭内の地獄のような環境で育った。

その壮絶な過去を乗り越え、西さんは親や子どもと向き合いながら、家庭に合った子育て支援を提供している。

「負の連鎖」断ち切りたい―― 父から虐待受けた女性、挫折を乗り越えてフリー保育士に 苦しむ人の希望を照らす #令和の親

 温かな日差しが降り注ぐ長崎市内の公園。夫と共に走り回る3人の子どもを見守るのは、フリーランス保育士の西有希さん(34)。組織に所属せず、家庭に出向くフリー保育士は長崎県内で珍しい。あえてこの道を選んだのは、自身の壮絶な経験が大きい。親からの虐待、自殺未遂、そして産後うつ-。「虐待を受けて育った人が自分の子どもを虐待する『負の連鎖』を断ち切りたい」。時間をかけて親と子どもに正面から向き合い、それぞれの家庭に合った子育て支援を模索する。

 長崎県新上五島町出身。両親と四つ上の兄の4人暮らしだった。自然に囲まれて過ごしていた日々は、小学校入学前から一変。父親が西さんに暴言を吐くようになり、殴る、蹴るといった暴力が始まった。酒が入った時は包丁が飛んできたり、ライターで手を焼かれたり。「自分が悪いことをしたから、こういうことをされるんだ」。もう消えてしまいたいと思った。

 母親も西さんと同様、ドメスティックバイオレンス(DV)を受けていた。「あんたのせいでこうなった」。母親は西さんに責任を押しつけ、自分を守ることに必死のようだった。常に「いい子」でいようと自分の感情を押し殺して暮らした。後に知ったが、父親は貧困家庭に生まれ、親のDVを見て育っていた。虐待を受けて育った人が親になり、妻や子どもに暴力をふるう。典型的な虐待の「負の連鎖」だった。

 高校入学後、母親が家出。兄は高校進学で島外に出たため、父親と2人暮らしの生活が始まった。常に父親の顔色をうかがい、機嫌を損ねないように、怒らせないように暮らした。それでも、木刀で殴られたり、教科書や靴などを裏山に投げ捨てられたりした。

 一人で生活できないことは分かっていた。逃げ場はなく、地獄のような日々が続いた。ストレスからか毎日のように発熱し、学校を早退することも。親から抱き締められたことも、認めてもらった記憶も一度もなかった。残ったのはさみしいといった感情だけだった。