チャット活用で教育現場に変化 児童生徒の主体性向上/教職員「時間外」削減 吉田町の全小中学校

AI要約

文部科学省の「GIGAスクール構想」により1人1台の端末を利用した教育が進められている。具体的には、吉田町の全4小中学校ではチャットの活用や校務のクラウド化によって、児童生徒の学びの姿や教員の働き方に変化が見られている。

児童たちは自ら目標や問いを設定し、教材や思考を整理するチャットやシートを活用して学びを深め、個別指導を受けることができる。教員も一斉指導から個別指導へと変化し、子どもたちの成長により敏感に気づくようになっている。

端末を活用した取り組みは町内全教職員間でも行われており、チャットやクラウドを活用することで情報共有や時間削減が実現されている。岩本幸子校長は、子どもたちには自己調整力を身につけさせ、将来の社会で活躍できる力を育てたいと述べている。

チャット活用で教育現場に変化 児童生徒の主体性向上/教職員「時間外」削減 吉田町の全小中学校

 文部科学省の「GIGAスクール構想」により1人1台の端末を利用した教育が進められているが、その進度や方法はさまざま。2023年度に文科省の「リーディングDXスクール」に指定された吉田町の全4小中学校では、チャットの活用や校務のクラウド化によって、児童生徒の学びの姿や教員の働き方に変化が見られるという。6月、全国から100人以上の教育関係者が訪れた住吉小の公開授業をのぞいた。

 自習を含め全クラスの授業が公開された。6年生の社会科は、聖徳太子が取り組んだ天皇中心の国づくりを学ぶ内容。杉田直隆教諭が授業内容を説明後、聖徳太子に関する映像を流すと、クラスのチャットスペースが動き出した。「昔から憲法ってあったんだ」「学校のルールみたい」「確かに」-。児童が次々に発信した。

 児童は自ら設定した目標や問いに対し、教材や思考を整理するツールを選んで学びを深めていった。個々の目標や分かったことは、端末内の「シート」に記入。友達の記述を見て、話し合いをしたり一緒に調べたりするために席を動いた。杉田教諭は児童の様子を見ながら、チャットやシートの記述を確認して、個別指導した。

 同校では3年ほど前から、チャットの活用を中心に端末利用を進めてきた。子どもたちの理解度や進度が可視化され、校内では一つの単元を自分のペースで学ぶ「自由進度学習」を取り入れる教科もある。杉田教諭は「主体的に授業に取り組む様子が伺え、圧倒的に子どもたちのアウトプットが増えた」と効果を語る。自身については、一斉に指導していた時よりも机間巡視や発語が増え、一人一人の変化に気づきやすくなったという。

 同様の取り組みは町内全教職員間でも行われている。全教職員のチャットスペースで日常的に相談や提案、先進事例の紹介が行われているほか、授業案や行事予定などはクラウド上で共有。資料の印刷や対面での会議のための時間確保は必要なくなり、4年間で時間外勤務時間が3割削減された学校もある。

 住吉小の岩本幸子校長は「困難に直面しても、子どもにも教員にも『とにかく、やってみよう』という前向きな姿勢が生まれる。予測不能な社会を生きるために、自分で考え、企画し、問題を解決できる力を育みたい」と展望した。

 ■端末利用の価値示して 信州大・佐藤准教授

 文科省の学校DX戦略アドバイザーとして全国の学校を支援し、吉田町の教育の情報化推進アドバイザーでもある信州大の佐藤和紀准教授は、不登校が増え児童生徒の多様性が進む中「端末利用によって個別最適な学びやそれぞれのペースでの学習が可能になる」と断言。データを基に教員が目指す姿を示し、端末の利用価値を子どもが理解することが大切という。

 例えば、端末を利用して文章をまとめる際、文字カウント機能を使って書くよう指導することを勧める。「機能を使えば、子どもは前回よりも文字数を超えようと努力し、量をこなすことで質の高い文章が生まれる」と説明する。学年ごとにタイピング速度の目安も示すなどして、「紙の時よりも素早くたくさん書けるという端末の利点に気づかせる」。

 考えを図やチャートを使って整理するために、複数の「思考ツール」から一つを選ぶ時も、子ども自身がそのツールの選択理由を説明できることが理想。「失敗と成功を繰り返し、それを記録し、法則性を見つけ出させる。自己調整力が身に付き、“自走”できるようになる」

 端末を利用する場合にインターネット情報の引用について課題もあるが、佐藤准教授は、情報源を教科書や副教材を中心にするよう促す。「子ども一人一人が学習を進める時の情報源は、信頼性の高いメディアから。教科書を読み込ませることが大事」と話す。