「まさか」への備え(7月9日)

AI要約

福島第1原発事故から8カ月後の様子を報告し、元所長の心労や苦悩、現場の混乱が描かれている。

吉田昌郎さんの死後、原発ではトラブルが続き、廃炉作業の緊急点検が行われた。指揮官の命日を迎える中、再発防止の取り組みが必要とされている。

「まさか」に備え、原発事故の教訓を生かすため、安全対策の重要性が強調されている。

 免震重要棟と呼ばれる建物内はまだ、どこかに「戦場」の雰囲気を漂わせていた。東京電力は福島第1原発事故発生から8カ月後、構内を報道陣に初めて公開した▼大柄な男性が出迎えた。所長だった吉田昌郎さん。憑[つ]きものが落ちたような表情で、淡々と切り出した。「県民にご迷惑、ご不便をおかけし心よりおわびしたい」。死を意識した瞬間が数回あったと明かした。心労が重くのしかかっていたに違いない。間もなく職を退く▼想定外の連続だった。電源を失い、原子炉は暴走を始める。圧力を下げるベントの開始に手間取り、注水作業もうまくいかない。命令系統は統率を欠いた。NHK取材班の労作「福島第一原発事故の『真実』」(講談社)は、対応が後手に回り右往左往する現場の姿を浮き彫りにした。原子力の専門家として、吉田さんは忸怩[じくじ]たる思いだったろう▼災厄から13年。トラブル続発を受け、東電は廃炉作業を総点検した。緩みはないか。先月には、6号機燃料プールの冷却が一時止まった。きょう9日は、温かな心配りで部下に慕われた指揮官の命日。天に召され11年たつ。それぞれの職場、家庭で確認したい。予測を超える「まさか」への備えを。<2024・7・9>