交通事故はだれの責任?「過失責任主義」という考え方に潜む危険性とは

AI要約

法における「過失」の考え方について解説された記事。民法709条を基に、故意または過失によって他人の権利や法的に保護される利益を侵害した者は損害を賠償する責任を負うことが強調されている。

刑事責任との違いや未遂犯の取り扱い、過失犯の処罰についても触れられており、民事責任においては損害の発生が要件である点が強調されている。

記事では法律の柔軟性や変化、損害の賠償を通じた被害者の救済などが詳細に説明されている。

交通事故はだれの責任?「過失責任主義」という考え方に潜む危険性とは

連続テレビ小説『虎に翼』(NHK)、日曜劇場『アンチヒーロー』(TBSテレビ)など、法曹の世界に生きる人々を描いたドラマが話題を呼んでいます。法は、自然科学のような不変の法則とは異なり、「解釈」を変えることによって、あるいは「立法」することによって、時代に応じて変化を続けています。

今回の記事では、「過失」の考え方について解説しています。交通事故、傷害事件、公害問題、医療過誤事件、名誉毀損やプライバシー侵害など、損害に対する責任の所在はどのように決められているのでしょうか。

*本記事は中央大学法学部教授の遠藤研一郎氏の著書『はじめまして、法学 第2版 身近なのに知らなすぎる「これって法的にどうなの?」』(ウェッジ)の一部を抜粋したものです。

 読者のみなさんは、日本の民事裁判で、一番用いられている条文をご存じですか? それは、民法709条です。同条は、次のように定められています。

民法709条

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 条文を一読するだけで想像できると思いますが、この条文は、かなり抽象的で、そのぶん、活用範囲は極めて広いものとなっています。交通事故、傷害事件、公害問題、医療過誤事件、名誉毀損やプライバシー侵害など、誰かに損害の賠償を求めたいと思ったときに、出発点となる条文です。これによって、損害を被った被害者の救済を図っているのです。

 刑事責任においては、結果が発生せずに、「未遂」であったとしても処罰される場合があります(刑法43条、44条)*1。あるいは、実害が発生していなくとも、保護法益が侵害される危険があれば、それだけで処罰の対象となることもあります。しかし、民事責任においては、何らかの損害の発生が、加害者に責任を問い得るための要件となっています。

 他方、刑事事件においては、「過失犯」が処罰されるのは例外的ですが(刑法38条1項)*2、民事責任の場合、故意と過失の区別をすることなく、損害賠償責任の対象になります。

*1 【刑法43条】犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。

【刑法44条】未遂を罰する場合は、各本条で定める。

*2 【刑法38条】(1)罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。(後略)