5歳までは「夜8時までに就寝」が鉄則…帰宅後30分で寝かしつけを始める小児科医の子育てルール

AI要約

子供の脳の発達には、早寝早起きなどの規則正しい生活リズムが重要であり、5歳までに脳の土台をしっかりと作る必要がある。

脳の育ち方には順番があり、からだの脳からおりこうさんの脳、最終的にこころの脳へと発達する。この順序を守らないと脳のバランスが崩れ、問題が生じる。

早期教育や塾に行かせるだけではなく、からだの脳を十分に育てることが重要であり、良い睡眠や生活リズムの確立が必要である。

子育てで大切なことは何か。小児科医で『子育てを変えれば脳が変わる こうすれば脳は健康に発達する』(PHP研究所)を書いた成田奈緒子さんは「脳の発達にあった育児をすることが大切だ。5歳までは早寝早起きを徹底しないと、自律神経や体内時計がうまく働かず、学力低下や不登校などの問題につながる」という――。(聞き手・構成=ライター・村井裕美)(前編/全2回)

■規則正しい生活リズムは教えないと身につかない

 ――成田さんは本の中で「子供が生まれて最初の5年間は『夜8時に寝る』生活を徹底すること」を提唱されていますが、それはなぜでしょうか?

 子供、というか人間はそもそも、夜は寝て朝になれば起き、昼間活動する動物です。でも生まれてすぐはそれがまだきちんと脳内に刻み込まれていません。だから赤ちゃんは寝たり起きたり、起きたり寝たりを繰り返す不規則な生活をしているわけです。

 そこでまず「人間という動物は、昼間は活動して夜は寝るものなんだ」ということを子供の脳に徹底的に刻み込みます。何も意識しなくても、朝に勝手に目が覚めて、夜は勝手に眠くなって、お腹も勝手に空いてくるという「体内時計」をしっかり働かせることのできる脳をまず1番最初に、生まれて5年間ぐらいで作り上げるのです。

 もっとも、言葉の分からない生まれたての赤ちゃんに「早く寝て早く起きなさい」と言っても通じません。だから、五感から入る刺激で脳に教え込むんです。明るくなったら朝だよ、暗くなったら夜だよと、目から入る光の刺激で子供に生活リズムを教え込む作業を繰り返すのが、親たるものの役目です。

 ――それができないとどのような問題が起こるのでしょうか?

 最初の5年間で育まれるのは、脳の土台の部分です。土台がしっかりしていないと、それ以降の「脳育て」もうまくいかなくなってしまうのです。

■脳の育ち方には順番がある

 私は20年ぐらい前から、子供の脳は①からだの脳→②おりこうさんの脳→③こころの脳の順番に育てましょうと提唱しています。そうしないと、脳のバランスが崩れた状態になり、心身に症状が出てくるからです。なかなか一般の方には浸透しないのですが、専門家の方には結構注目していただいています。

 まず、生まれてから5歳くらいまでの間に急速に発達するのが「からだの脳」です。これは脳の中でも、姿勢の維持や睡眠、食欲、呼吸や情動など、生命の維持に必要不可欠な身体機能を司るところです。自律神経の働きもコントロールしています。

 この脳を育てるには、「夜は眠くなって寝る、朝も自然に目覚めて昼間に活動する」という生活リズムを刻み込むことが何より重要です。体内時計がしっかり働く脳を作り上げなくてはなりません。

 その次に発達を始めるのが「おりこうさんの脳」です。「おりこうさんの脳」とは大脳新皮質のことで、勉強したり言葉を作ったり、スポーツで自分の意志で体をうまく動かしたりするための脳で、6~14歳くらいの間に大きく育ちます。

 そして10歳ぐらいになってくると、「おりこうさんの脳」の中でも最も高度な部分である前頭葉を使って、複雑な思考をしたり、他者を思いやるといったことができるようになってきます。私たちはこれを「こころの脳」と呼んでいます。

 この子供の脳の発達の順序は私が発見したことではなく、常識です。そして、土台となる「からだの脳」が頑丈に育たなくては、順番通りにバランスよく育てることはできません。

■早期教育が誤りである理由

 私はいつも家に例えているのですが、その1階部分にあたるのが「からだの脳」です。1階が小さくて弱いのに、2階部分つまりお勉強やスポーツばかりを強化しようとしたらどうなるか。わらでできた脆弱な1階の上に、頑丈なレンガでできた2階を置こうとしても崩れてしまいますよね。つまり、塾に行かせて勉強を頑張らせているのに学習内容がいっこうに身に付かないというのも、睡眠を始めとする「からだの脳」がきちんとできていない時に起こりうる問題なのです。

 「からだの脳」ができていないと、朝起きることが上手にできない。体内時計が働いていないから朝になっても目覚めないし、活動できない。そうすると学校にも行けなくなって不登校になったりすることもあります。

 また「からだの脳」と「おりこうさんの脳」がきちんと育っていなければ、その次の「こころの脳」のバランスも崩れてしまいます。すると人を思いやることができなかったり、他の人に対して暴言を吐いてしまったりする可能性もあります。複雑な思考ができないわけですから、年齢が上がって学校で習う学習内容が高度になっていくにつれ、勉強について行けなくなってしまうとか、実にさまざまな問題が出てきます。